ジェフェリー・K・ザイク ブレント・B・ギアリー 編 田中由美子 訳 本書は、ミルトン・エリクソンとその文通相手の手紙に自ら語らせ、読者が自分なりの結論を引き出せるようにした。段落や句読点を整えたことを除けば、手紙文そのものには編集を加えていない。 エリクソンは文才を駆使して書いている。編者は、背景を説明したり、個々の参照事項や状況を明確にするために、編集上のコメントを入れただけである。 A5判・500ページ 定価6,300[本体6,000円+税] ISBN 978-4-86108-050-0 C3011 ¥6000E 2008. 10. 20 第1版 第1刷 |
もくじ
日本語版まえがき… …………………………………………………………… iii
編集者のことば… ……………………………………………………………… vii
まえがき…………………………………………………………………………… ix
第Ⅰ章 マーガレット・ミード……………………………………………… 1
第Ⅱ章 グレゴリー・ベイトソン、ジェイ・ヘイリー、
ジョン・ウィークランド… ……………………………………… 59
第Ⅲ章 精神分析家:ルイス・ウォルバーグ、ローレンス・
キュビー、アイヴズ・ヘンドリック……………………… 105
第Ⅳ章 催眠界の重要人物:レスリー・ルクロンとアンドレ・
ワイツェンホッファー…………………………………………… 177
第Ⅴ章 催眠と反社会的行為をめぐって:ジョージ・
エスタブルックス、ロイド・ローランド、
ジョン・ラーソン、ジェイコブ・コン、
ウェスリー・ウェルズ、フィリップ・エイメント… … 241
第Ⅵ章 さまざまな文通相手:専門家およびその他の人々… … 285
むすび…………………………………………………………………………… 465
References……………………………………………………………………… 469
訳者あとがき… ……………………………………………………………… 475
訳者あとがき
本書は、2000 年に出版された“The Letters of Milton H. Erickson”の全訳である。
訳者がエリクソンの名前を初めて耳にしたのは、神田橋條治先生の公開スーパーヴィジョンの場で、コミュニケーションの名手として言及されたとき。ほんの二言、三言であったが、神田橋先生の言葉がしばしばそうであるように、それも時がくるまで頭の片隅にしまわれていて、あるとき書店で見かけたザイクの解説書をふと手にとる気になって、わたしはエリクソンと出会った。そして、わけがわからないながらも魅了された。
その後、たまたま『アンコモンセラピー』の翻訳に参加させていただく機会があり、そのとき、いわばヘイリーの匂いとでもいうようなものがわたしにはじゃまに感じられて、エリクソンのなまの記述を翻訳してみたいと思うようになった。書簡集の翻訳のお話をいただいたときは一も二もなく飛びついてしまったが、当時は論文集の翻訳もまだ出ていなかったし、手紙文という特殊な形式である。それを英語に関しても催眠に関しても素人のわたしが翻訳しようというのだから、いささか無謀な話だった。
とはいえ、なんの強みもなかったわけではない。なによりもエリクソンに魅せられている。言っていることがすんなり理解できるときもできないときも、彼はいつでもわたしのなかに
wondering(ロッシ)を引き起こす。その感じが楽しい。
もう1つは、「利用」や「許容」や「逆説」など、エリクソンを特徴づける多くのものが、表現や背景こそ違え、長年にわたる神田橋先生の公開スーパーヴィジョンのなかで、具体例を通じて学び、慣れ親しんできたものであったことだ。
そんなわけで、英語も催眠も勉強しながら、そして周囲の人々にあつかましく援助を求めながら、作業を進めることになった。
作業を進めるにつれて自分の日本語のあやしさを痛感することになったが、親しい友人であり、ことばの研究家である山田みどりさんが、第一読者となってわかりにくいところを指摘したりアイデアを提供してくれた。彼女はまた、英語で暗礁に乗り上げたときにも相談に乗ってくれ、どちらの場合もわたしが納得いくまで気長につき合ってくれた。さらに、2人がかりでも答えが出ないときは、山田さんの兄上である明雄さんにお知恵を拝借した。このお2人の援助がなかったら、少なくともこのレベルの翻訳は実現できなかった。
また、翻訳家の今井幹晴さんが、ベイトソンがお好きということで第Ⅱ章を手伝ってくださった。
催眠に関しては、さいわい、1999 年にアメリカ臨床催眠学会の姉妹学会として日本臨床催眠学会が誕生していたので、絶好の研修の機会を得ることができた。研修でお世話になったのはもとより、用語のことなどで個別にご指導いただいた高石昇先生や大谷彰先生に深く感謝している。
ほかにも、一人ひとりお名前を挙げることはしないが、多くの方々に助けていただいた。しかし、原文のすべてに目を通したのはわたしだけであり、言うまでもなく文責はすべてわたしにある。知識や語学力の不足を補うために、言及されているエリクソンの論文にはできるだけ目を通すようにした。エリクソンがお墓のなかでひっくり返るようなたぐいの間違いは犯していないと思う(願わくは)が、もしそのような間違いがあったら、それは努力が足りなかったせいではなく、現時点でのわたしの能力の限界によるものである。発見した方にはぜひご教示願いたい。
最後に、現在では、精神分裂病は統合失調症というよりふさわしい名称で呼ばれている。それを言えば、今日、母親のコミュニケーションのとり方で統合失調症の発症を説明できると考える人もいないだろうし、いくつか出てくる他の病名も、なじみのないものになりつつあるか、すでに目にしたことのない表現だったりする。「ご主人」というような言葉に抵抗を感じる方もおられるかもしれない。しかし、そうした呼称の変化自体が時代を反映していると思うので、敢えてエリクソンの時代の雰囲気を伝える言葉を使った、ということをここでお断りしておきたい。また、さまざまな団体名が出てくるが、多くは想像に基づいて名づけるしかなかったので、英語の名称も記しておいた。
田中 由美子