日本行動科学学会 編 杉岡 幸三 著 受精卵から赤ちゃんとして生まれるまでの間、ヒトは大変ドラマチックな時期を過ごす。しかし、この間のことが意識されないことが多い。本書はこの胎児の期間を最新知識をもとにあらためて見直す。 A5判・70ページ 定価630[本体600円+税] ISBN 978-4-86108-049-4 C3011 ¥600E 2008. 4. 15 第1版 第1刷 |
もくじ
第1章 生まれるとは? 5
第1節 前成説 7
第2節 卵子と精子の出会い 11
第2章 受精から誕生まで 14
第1節 卵子 14
1)胎児の時から卵子は作られる 14
2)卵子の成熟と排卵 16
第2節 精子 20
1)父親の DNA 20
2)どのようにして卵子に向かうのか? 22
3)卵子にたどり着く長い道のり 24
第3節 妊娠齢と受精齢 26
第4節 受精 ──生命体の誕生── 28
第5節 桑実胚 32
第6節 着床 33
第7節 胚葉の形成と分化 34
第8節 胚子から胎児へ 36
第9節 胎児から赤ちゃんへ 39
第 10節 胎児の脳の発達 ──とくに聴覚の発達と胎教── 40
1)胎児の聴覚 43
2)胎教とモーツアルト 44
第 11節 胎盤 ──母親と胎児をつなぐ生命維持装置── 45
第 12節 羊水と羊膜 48
第 13節 誕生、その瞬間 49
第3章 遺伝とゲノム 54
第1節 遺伝子 54
第2節 ヒトのゲノムの不思議──不要なものが必要?── 57
第4章 誕生の奥に潜むもの 58
第1節 外的環境 58
第2節 行動催奇形性をもたらす環境物質 62
1)アルコールの行動催奇形性 63
2)タバコの行動催奇形性 63
3)金属の行動催奇形性 64
参考文献 67
あとがき
この最終章では、我々の日常場面に存在するいくつかの環境物質や環境因子に、胎生期にさらされることが、胎児や生後の子どもの身体的また、行動学的・神経学的発達に悪影響を及ぼすということについて紹介した。先に記したように、先天異常もしくは先天奇形という用語は、過去においては一般に、催奇形性を含む胎児毒性と総称されてきたが、近年では、この概念を拡大する必要性が叫ばれている。すなわち先天異常は、形態的先天奇形だけではなく、生後の様々な行動や機能異常、知能および知覚障害、情動性の異常、不妊などの生殖障害、生化学的(代謝)異常、免疫力(感染抵抗性)の低下、腫瘍発生、老化の促進、短命など、多くの発生異常を包含するとともに、社会性の低下も先天異常学の対象となる、と考えられている。このように考えると、本書で示した「生まれる」ということのメカニズムについて正しい知識を得ることは、発生学、産科学、先天異常学、小児科学、小児神経科学などの医学関係だけでなく、心理学(特に発達心理学)、行動科学、神経行動科学を学ぶ者にとっても無縁のものではない。特に子どもの行動異常の研究は、これらの基礎医学や薬学そして様々な分野の心理学も一体となって取り組むべき大きな社会的責任を伴う学問であるともいえる。今後、心理学を研究する人たちが、この分野に興味を持って進まれんことを強く望んで本書のあとがきに代える。
杉岡 幸三
著者について
杉岡 幸三 すぎおか こうぞう
1972年 関西学院大学文学部心理学科卒業
1977年 同大学大学院博士課程修了 島根医科大学解剖学講座助手
1983年 神戸大学医学部第1解剖学講座助手
1995年 神戸大学医学部第1解剖学講座講師
2001年 神戸大学大学院医学系研究科脳科学講座神経発生学部門講師
2007年 姫路獨協大学薬学部医療薬学科機能形態学講座教授(現職) 神戸大学医学部客員教授(併任)