アメリカ医学の歴史
ヒポクラテスから医科学へ

  
ジョン・ダフィー 著
網野 豊 訳

A5判・512ページ 定価[本体4,800円+税]
ISBN 4-931199-95-X C3040 \4800E
2002. 10. 18 第1版 第1刷

 建国してわずか200年足らずなのに、現在の国際政治・経済においてアメリカは間違いなく大国です。しかも科学技術・医学では最先端を走っており、実際の医療でもほとんどいつも我が国より一歩早く新しい規範なり方向性を打ち出してきています。しかしながら、本書を読むかぎり、アメリカの医学に向けるエネルギーの凄さもさることながら、ベンジャミン・ラッシュの医療のようなマイナスの遺産もなお引きずっています。アメリカの医師達が政府から干渉を受けないようにいかに腐心してきたか、さらにそうしたプロフェッショナルの自由というものをいかに大事にしてきたかということも、アメリカ医学の歴史という気がいたします。
 我が国の医学の現状を理解しようとすれば、アメリカの医学・医療の歴史がどのように展開してきたのかが参考になるはずです。




目 次

はじめに
第1章 アメリカ医学の起源
第2章 18世紀
第3章 医療専門職
第4章 独立革命時代の医学
第5章 19世紀初期の医学
第6章 変則医家庭医学
第7章 アメリカ外科のいしづえ
第8章 内科学と外科学の初期の指導者
第9章 医師の教育・認可・地位
第10章 南北戦争時代の医学
第11章 近代医学の出現
第12章 外科学の開花
第13章 医学教育
第14章 医療専門職の組織化
第15章 前進する医学の最前線
第16章 第1次世界大戦以降の外科学と医業技術
第17章 フレクスナー報告以後の医学教育
第18章 医学に携わる女性
第19章 医学に携わるマイノリティー
第20章 20世紀の医療専門職
第21章 地域社会の健康
第22章 医学はどこまで進むのか

原注
参考文献
参考図書
訳者あとがき
著者の紹介
訳者の紹介


「はじめに」より
 本書の内容は、約50年に及ぶアメリカの医学と公衆衛生に関する研究や著作の集大成である。アクトン卿(1834‐1902)は、『ケンブリッジ近代史Cambridge Modern History』の最初の編集者で、あらゆる学問分野のなかで通暁していない分野のない最後の人物と言われていた。今日では医学や生物学系の分野が急速に発展していて、その全てで権威となることなど誰にもできない。私の場合、歴史資料や出版物に幅広く依存する割合がかなり高い。膨大な資料から選ぶには難しい決断をしなければならないことが多かったので、読者のなかには、特に興味を持っておられる分野なり、お気に入りの歴史上の人物が軽んじられていると感じる方がさぞやたくさんいらっしゃることだろう。
 アメリカ医学の歴史についての初作『癒す人The Healers』を著した際、諸般の事情で20世紀については軽く触れるにとどめざるを得なかった。本書では、古い資料に最近の研究成果を凝縮して加え、過去100年間に起きた膨大な変化をかなり重視した。20世紀は知識が絶えず加速度的に蓄積される時代なので、生命医学系の重要な進歩を確認して追跡しようとしても、あくまで仮のものでしかないということがありうる。現代を扱った生命医学の歴史書が乏しいため、執筆は結構大変であった。近年、医学の社会的側面に注目する歴史家が非常に増えてきた。そういう発展は歓迎すべきことなのだが、まことに遺憾ながら、生命医学への関心は医学の社会的側面への関心に太刀打ちするほど大きくはない。
 しかしながら、科学はあくまでも医学の一部である。病原生物・媒介動物・遺伝学をはじめとして、正常と異常の双方を含めた人の生理学についてもいろいろ学んできたにもかかわらず、依然として医学の実践は、される側の社会が左右する一つの技術に留まっている。事実、人間は単なる臓器の集合体どころではないからこそ、科学としての医学(メディカル サイアンス)には限界があり、したがって、医学は社会との関わりを抜きにしては研究できないのだ。
 過去50年のあいだ、医学雑誌・学会会報・公衆衛生記録文書・新聞・一般雑誌・歴史団体コレクションをはじめとして、アメリカ医学史の資料という資料を幅広く読んで研究してきた。私の研究は北部連邦国のほとんど全州にまで拡がった。西部に対してはほとんど関心を払っていないにせよ、本書の解説が最新の歴史からずれていることはない。西部諸州が一人前になるまでには、アメリカ医学は西ヨーロッパの医学と合体して顕著な特徴を失いかけていたのである。



著者の紹介
 ジョン・ダフィー
 トゥレイン大学医学部の名誉臨床教授(医史学)であると同時に、メリーランド大学の名誉教授でもあり、後者の大学ではアメリカ史のプリスキラ・オルデン・バーク記念教授であった。ダフィーは公衆衛生と医学の歴史では著名な学者で、しかもアメリカ医史学会の前会長でもある。論文や著書は多数あり、代表作としては、『ルイジアナのルドルフ・マタス医学史』(全2巻)、『ニューヨーク市の公衆衛生の歴史』(全2巻)、『アメリカ植民地時代の伝染病』、『サニタリアン―アメリカの公衆衛生の歴史』などがある。(なお、著者は1996年6月20日に逝去されている)

訳者紹介

網野 豊 
あみの ゆたか
厚生労働技官、現在福岡検疫所所長
昭和22年12月12日東京生まれ
昭和52年3月 岐阜大学医学部卒業
   同  4月 東京都衛生局勤務
   同  5月 医師免許所得
昭和56年4月、厚生省へ移る。以降、厚生技官として環境庁、外務省在スリランカ大使館、茨城県庁、国立がんセンター、厚生省病院管理研究所、横浜検疫所、救急振興財団救急救命九州研修所を経て現在に至る。

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