Burrhus F. Skinner 著 河合伊六 長谷川芳典 高山 巌 藤田継道 園田順一 平川忠敏 杉若弘子 藤本光孝 望月 昭 大河内浩人 関口由香 訳 A5判・542ページ 定価[本体4,200円+税] ISBN 4-931199-93-3 C3011 \4200E 2003. 8. 27 第1版 第1刷 |
徹底的行動主義心理学の原点、障害児教育などの分野でめざましい成果を挙げつつある行動分析学の原点をなす著作。50年前に著わされた本書はこれまで日本語で読むことができなかった。翻訳に大きな困難があったとされているが、ようやく日本語版が刊行されるに至った。行動分析学のバイブルとして、本書を読まずにすますことはできない。
目 次
第1部 人間行動科学の可能性 1
第1章 科学の有用性 3
科学の誤用 3
科学による救済 5
自由に対する脅威 6
実祭上の問題 9
第2章 行動の科学 13
科学の重要な諸特性 14
科学的研究対象としての行動 17
行動科学に対する批判 19
第3章 生活体の行動の原因 27
行動の“原因”についての一般的説明 28
内的“原因” 31
行動と機能的関係を持つ変数 37
機能分析 41
データの分析 45
第2部 行動の分析 51
第4章 反射と条件反射 53
人間という機械 53
反射的な動作 55
反射行動の占める範囲 57
条件反射 58
反射の“生存価” 64
条件反射の適用範囲 65
第5章 オペラント行動 71
行動がもたらす諸結果 71
学習曲線 71
オペラント条件づけ 74
量的特性 79
オペラント行動のコントロール 81
オペラント消去 82
強化子となるものは何か? 86
条件性強化子 90
強化子は、なぜ強化的なのか? 96
偶発的随伴性と“迷信”行動 99
ゴール、目的、その他の目的因 102
第6章 オペラント行動のシェイピングと維持 107
行動の連続性 107
分化強化 111
行動の維持 115
間欠強化 115
第7章 オペラント弁別 125
弁別刺激 125
意図的行動と無意図的行動 128
弁別的レパートリー 135
注 意 141
刺激、反応、強化の時間的関係 144
第8章 環境コントロール 149
環境の重要性 149
刺激の分析 151
誘 導 153
弁 別 155
抽 象 156
刺激制御におけるいくつかの伝統的な問題 159
第9章 遮断と飽和 165
遮 断 165
要求と動因 167
動因の実際的利用 171
動因に関するいくつかの疑問 173
変数としての時間 182
個と種 184
要 約 186
第10章 情 動 189
情動とは何か? 189
反応傾向としての情動 191
情動が生じているときに共に変化する複数の反応 192
情動の原因 194
トータルな情動 196
情動は行動の原因ではない 198
情動の実用的使用 200
第11章 嫌悪・回避・不安 203
嫌悪的行動(嫌悪刺激にコントロールされた行動) 203
嫌悪刺激の実際的使用 206
回 避 209
不 安 212
不安と予期・期待 214
不安は行動の原因ではない 215
第12章 罰 217
疑問視されている方法 217
罰は作用するか 218
罰の効果 219
罰の第1の効果 220
罰の第2の効果 221
罰の第3の効果 223
罰の不幸な副産物 225
罰の代替物 226
第13章 機能と外観 229
特性とは何か 230
特性の予測 234
特性は原因ではない 238
第14章 複雑なケースの分析 241
“過剰な単純化” 241
単一変数のもつ多様な効果 242
多様な原因 246
多重な原因の実際的使用 250
投影と同一視 254
知覚における多様な変数 255
拮抗する結果を伴う変数 256
連鎖化 262
第3部 全体としての個人 265
第15章 “セルフコントロール” 267
行為の“自己決定” 267
“セルフコントロール” 270
コントロールのテクニック 271
コントロールの起源 281
第16章 思考 285
意思決定行動 285
意思決定行動の起源と維持 287
想起という行動 288
問題と解 290
“アイディアを思いつく” 298
アイディアの独創性 301
第17章 自然科学における私的な出来事 305
皮膚の内なる世界 305
私的な出来事への言語的な反応 306
私的な刺激状況の多様性 310
自分自身の弁別行動への反応 313
条件性の“見る”という反応 315
“見る”というオペラント反応 321
問題への伝統的な取り組み 327
伝統的な見解への反論 330
別の解決策 333
第18章 自 己 337
組織化された反応システムとしての自己 339
自己知識の欠如 343
シンボル 348
第4部 集団における人間行動 351
第19章 社会的行動 353
社会的環境 354
社会的エピソード 360
行動単位としてのグループ 368
第20章 個人によるコントロール 371
変数のコントロール 371
コントロールのテクニック 373
個人コントロールへの異議 379
第21章 集団によるコントロール 383
なぜグループはコントロールを用いるのか 385
グループコントロールの効果 387
グループコントロールの正当化 388
第5部 コントロール機関 391
第22章 政治と法律 393
コントロール機関 393
政治機関 395
政治的コントロールの技術 397
法 律 399
伝統的な解釈 401
別のタイプの政治的コントロール 405
政治機関へのカウンターコントロール 407
政府の活動の調整 408
第23章 宗 教 411
宗教的コントロールのテクニック 413
宗教を執り行なう機関にコントロールされた行動 417
宗教を執り行なう機関について 418
カウンターコントロール 419
宗教的コントロールの正当性 420
第24章 心理療法 421
コントロールの副産物 421
コントロールの情動的な副産物 423
オペラント行動に対するコントロールのさまざまな効果 425
コントロールする機関としての心理療法 429
心理療法と宗教的および政治的コントロール 434
伝統的な解釈 435
他の治療テクニック 442
心理療法の機関を説明する 446
第25章 経済的コントロール 447
通貨による強化行動 447
賃金支払いのスケジュール 448
労働の経済的価値 455
購入と販売 457
“経済学” 463
経済的組織 465
カウンターコントロール 466
第26章 教育 467
教育機関とそのコントロール技法 467
教育機関の行使する強化 470
教育的なコントロールの結果としての行動 473
カウンターコントロール 478
第6部 人間行動のコントロール 479
第27章 文化とコントロール 481
ならわしとしきたり 481
文化としての社会的環境 485
文化が行動に及ぼす影響 487
文化的な性格 490
第28章 文化の設計 493
価値判断 495
文化の生存 497
われわれは生存価を推定できるか? 501
第29章 コントロールの問題 505
専制政治に対抗するための安全装置 511
誰がコントロールするか? 514
個人の運命 515
索 引
訳者あとがき 521
訳者・担当章紹介
訳者あとがき
数年前、名古屋市で開催された学会当日のことである。会員休憩室でお茶を飲みながら数人で雑談していたとき、次のような会話が始まった。
「日本では、スキナーの行動分析の方法や技法がいろいろな方面に拡がってきているのに、心理学研究者の間でも、スキナーの基本的な考えなどについてかなりの誤解があるようですね。いったいどうしてでしょうか?」
「その傾向は確かにありますね」
「学生からスキナーについての質問が出たときにも、行動分析についてひどい誤解をしていると感じます」
「行動分析の原則や技法は、すでに以前から取り入れられているし、行動分析学会もかなりの回数を重ねてきている。障害児教育の分野でも、さらには不登校の子どもを学校復帰させる問題の分野でも、行動分析の原則や技法が有効に活用できることが立証されているのに、基本的な点について少なからぬ誤解があるようですね」
このような会話の後、続いて
「行動分析を学生にも正しく理解してもらう何か良い方法はありませんか」
「大学や大学院の授業や演習で、もっと説明の時間を増やす必要がありますね」
「学生や院生にもよく理解できる解説書が数冊刊行されているが、もっと欲しいですね」
さらに、
「日本には、スキナーの原著の翻訳が少ないと思います。行動分析の中核となる原著の翻訳が必要ですね」
という意見にみんなは賛成した。そして、
「学生や院生、さらには研究者に読んでいただくとしたら、スキナーの原著のうちのどれが一番適切でしょうか」
「なかなか難しい問題ですが、何といってもScience
and Human Behaviorだと思いますが」
「そうですね。スキナーの原著といえば誰でもまずこの本のことを考えますね」
「この本なら、行動分析に関心を持つ人なら誰でもたいてい一度は、少なくともその一部分は読んでいますね」
「確かにそうですね。あの本は行動分析を学ぶ者にとっては、バイブルに相当する本で、無限の宝が埋蔵されているのに、これまで翻訳が出されていない。むしろ不思議なくらいですね」
「その通りですね。行動分析の研究者にとって、あの本はもっとも重要な必読の本ですね」
「私もそう思いますが、たいへん翻訳が難しいと聞いています。これまですでに何人かの人たちが翻訳しようとしたけれども、まだ実現していない。その理由の一つとして、この本の中には、世界的な文学書の一部がたびたび引用されており、それで手を焼いたために翻訳を諦めたという話も聞いています」
「その点は文学の専門家の協力を仰げば解決できるのではありませんか」
「そうですね。いかがでしょう。かなり困難な仕事かもしれませんが、何人かで手分けして翻訳に取り組んでみませんか」
こうして翻訳の話は具体化し、そこにいた数人のうちの最年長であった河合が取りまとめの世話役をすることとなった。
幸いすぐ近くに二瓶社の吉田三郎氏がおられたので、「思い立ったが吉日」とばかり、吉田氏に翻訳出版の相談を申し上げた。吉田氏から「しばらく前向きに検討してから」という好意的なお返事をいただいた後、いよいよ二瓶社から出版していただくことに決まった。
早速、河合から当日その場に居合わせた皆さんに、電話その他で、翻訳を担当していただく章の希望を尋ね、担当箇所の割り当て案が作られた。こうして同書の翻訳という一大事業は進発した。
その後さまざまな困難に遭遇しながらも翻訳の仕事は何とか進捗し、全体の翻訳原稿も河合の手元に届けられた。大急ぎで全体に目を通し、気づいた点の指摘も相互に行なった後、全体の訳文の文体や表現や訳語の統一や調整、さらには索引の作成などの仕事は、ほとんど二瓶社の編集部の方々の手を煩わせることとなった。そのおかげで、いよいよ近く刊行の運びになった。編集部の方々のお力添えが無ければ本書は決して日の目を見ることはなかったであろう。
本書は実験的行動分析のみならず応用行動分析の宝庫でありバイブルであるが、行動分析の基本的考え方だけでなく、思考、社会的行動、自己コントロール、集団コントロール、政治と法律、宗教、心理療法、経済的コントロール、教育、文化など日常生活における広い分野の諸問題への応用もきわめて平易に解説されている。原著は今から50年あまり前に出版されたものであるが、今日的な諸問題についても多くの示唆を与えてくれている。本書が、行動分析の正しい理解と普及のために役立つことをひたすら願っている。
数年前から翻訳の世話役を勤めさせていただいた者として、出版の日を間近に迎えることができたことを喜ぶとともに、これまでたいへんなご苦労をおかけした二瓶社の社長吉田三郎氏はじめ編集部の皆様に、心からお礼を申し上げたい。諸賢の忌憚のないご意見をいただくことができればありがたいと考えている。
平成15年6月7日
翻訳者代表 河合伊六
訳者・担当章紹介
河合伊六 かわい いろく 文学博士、広島大学名誉教授、日本大学大学院非常勤講師
1、2、3、7、13、25章担当
長谷川芳典 はせがわ よしのり 文学博士、岡山大学文学部教授
4、5、6章担当
高山 巌 たかやま いわお 医学博士、九州保健福祉大学社会福祉学部教授
8、9章担当
藤田継道 ふじた つぐみち 教育学修士、兵庫教育大学学校教育学部教授
10、11章担当
園田順一 そのだ じゅんいち 医学博士、九州保健福祉大学社会福祉学部教授
12章担当
平川忠敏 ひらかわ ただとし 博士(心理学)、鹿児島大学大学院教授
14章担当
杉若弘子 すぎわか ひろこ 博士(人間科学)、奈良教育大学教育学部助教授
15章担当
藤本光孝 ふじもと みつたか 文学修士、香川大学教育学部教授
16、17、18、26章担当
望月 昭 もちづき あきら 博士(心理学)、立命館大学文学部教授
19、20、21、24章担当
大河内浩人 おおこうち ひろと 博士(学術)、大阪教育大学教育学部助教授
22、27、28、29章担当
関口由香 せきぐち ゆか 修士(人間科学)、聖徳大学人文学部講師
23章担当