磯 博行 著 A5判・176ページ 定価[本体1800円+税] ISBN 4-931199-85-2 C3011 \1800E 2002. 4. 1 第1版 第1刷 |
目 次
1.行動科学とは
心理学から行動科学へ
行動科学の母体となった学習心理学
動物実験の重視
2.行動科学と医科学
行動科学の関連分野
行動薬理学
心理神経免疫学
行動遺伝学
3.学習心理学の発展
慣れと適応
2つのタイプの条件づけ
古典的条件づけ
古典的条件づけによって何が学習されるのか
興奮と制止
オペラント条件づけ
2種類の記憶研究:人間の記憶と動物の記憶
4.行動と健康の生物科学
生物としての人
人体の構成
脳の構造と機能の理解
神経系
神経の伝達
神経メディエーター
脳の各部位の働きの概略
遺伝子とタンパク合成
遺伝子について
遺伝子の発現
トランスレーション
タンパク質の合成
エネルギーの産出
遺伝子工学
5.行動科学の応用分野(1)行動神経科学
海馬機能の解明
神経伝達物質と学習
神経細胞死をもたらす物質
コンディショナル・ノックアウトマウス
学習によって脳になにが起こるか
神経細胞は新生する
神経の修復
6.行動科学の応用分野(2)行動療法
行動療法の発展に寄与した動物実験
自律訓練と系統的脱感作
リラクセーションを得る方法
自律訓練法
不安反応を消去する方法
系統的脱感作
フラッディング法
負の練習
オペラント技法
正の強化法
消去(負の罰)法
罰
7.行動科学の応用分野(3)行動教育学
教えると学ぶ
間違いから学ぶこと
知恵と知識
しつけとマナー
断行訓練:自己表現のための訓練
ノーブレス・オブリージュ
8.コミュニケーション
動物のコミュニケーション、人間のコミュニケーション
医療とコミュニケーション
非言語コミュニケーション
言語によるコミュニケーション
病気を治すのは患者である
序 文
心理学が台頭して100年以上にもなるが、人の心の理解にはまだ至っていない。心の座が脳にあるにもかかわらず、心理学は脳をブラックボックス視し、脳研究は生理学などの専売であるかのように冷淡に扱ってきた。一方で、社会や環境との相互作用としての人の心の研究は今なお隆盛を極め、臨床的な応用の域にまで達している。
ここで取り上げる新しい心理学の方法である行動科学は、他者の心を理解することを棄て、自己変革によって他者と融和をはかる方法を提供する。およそ80年前にワトソンが提唱した行動主義心理学は、他者の心を知ることがあまりにも困難であるがゆえに、心を放棄して行動に着目した。他者の行動上の法則を調べることによって、他者の心そのものではなく「心の働き」を理解しようとした。このような心理学の正しい潮流は、1970年以降の認知心理学の台頭により次第に失われ、また昔のように「心の仕組み」の理解へと向かった。他者の心を理解しようと考える点においては認知心理学は臨床心理学と同じである。そして、他者の心はなにも理解できない現実がある。
幸いにも行動科学は、少なくとも行動を変化させるための有効な方法を生み出し、それは行動療法や行動修正法と呼ばれている。他者の行動をそのような手段によって変容させるのにはやはり困難が伴うが、それを自分で理解し、自分に適用することができたなら、それは非常に有効な自己改革の手段となるにちがいない。本書はそのための具体的な方法を取り上げた。
さて次に、ある有識者の経験に基づく心理学を紹介する。
「悩みは千差万別ですよ。だけど、その一つの悩みにこだわっていたら、どうしようもないよっ、て。悩みを客観視できればいい、目線を少し変えればいい。すると、いろいろなことが分かってね、ばかばかしくなるんですよ」瀬戸内寂聴(朝日新聞、1999、12、29、天声人語より。)
これは、瀬戸内寂聴氏が岩手県天台寺で続けている「青空説法」に集まった人たちのことについて述べた言葉である。この中で、悩みを客観化する、目線を少し変えることが、もっとも有効な悩みの解消法であると述べているが、悩みを客観化し、目線を変えるのは、悩みを持つ個人である。瀬戸内寂聴氏は心理学者ではなく、作家であり、宗教者でもある。彼女が述べていることは、まさに本書で明らかにしようとしている核心である。つまり、第三者は個人の悩みの内容にまでは立ち入れない。でも、個人がそれに気付くことを助けることができる。行動科学はその過程をもっと効果的に援助することができる。本書では、これから新しい人生を築いてゆこうとする若い人たちを対象に、個人がどのようにうまく、良く生きてゆくべきか、その方法を教授する。
著者紹介
磯 博行 いそ ひろゆき
1948年 大阪市に生まれる
1972年 関西学院大学文学部心理学科、卒業
1973年 兵庫医科大学助手(心理学)
1974年 関西学院大学院文学研究科修士課程心理学科専攻、修了
文学修士
1988年 米国パデュー大学院神経科学プログラム博士課程、単位所得、
退学
1992年 兵庫医科大学講師(心理学)
1994年 医学博士(兵庫医科大学)
現在 兵庫医科大学助教授(行動学)
主著 「動物実験心理学セッション」(二瓶社 編集・共著)
「動機づけの基礎と実際」(川島書店 共著)
「健康心理学」(培風館 共著)
「メイザーの学習と行動」(二瓶社 共訳)
「学習する脳・記憶する脳」(裳華房 単著)