ナイジェル・フォアマン/ラファエル・ジレット 編 A5判・256ページ 定価[本体4000円+税] ISBN 4-931199-83-6 C3011 \4000E 2001. 12. 24第1版 第1刷 |
パラダイムの使用,短所,およびそれから生み出される結果
目次
日本語版への序文 1
Nigel Foreman and Raphael Gillett
序 9
Nigel Foreman and Raphael Gillett
1 外界の空間での身振りの体制化:定位とリーチング 25
Henriette Bloch and Francise Morange
はじめに 25
定位反応と知覚的位置づけ 27
図と地の分化 30
場所学習の研究 33
リーチングと対象の把握 43
結論 48
2 場所の空間表現に対する子どもの理解:方法論の景観地図を作製する試み 51
Lynn S. Liben
はじめに 51
場所表現とは何か,なぜ場所表現を扱うのか 52
研究手法の分類 55
検討すべき構成概念 73
研究目的の多様性 92
3 空間表象における新しい視点:異なった課題から位置記憶に関して何がわかるか? 97
Nora S. Newcombe
はじめに 97
誤りを導く従属変数について示す2つの研究例 100
従属変数間の予測の差異に関する2つの例 108
結論 114
4 子どもの経路発見を研究するための研究パラダイムと方法論 117
Mark Blades
はじめに 117
子どもの経路発見についての理論的記述 119
経路の記述 123
スケッチマップ描画とモデル構成 125
方向と距離の推定 130
経路の再認 133
実際の環境内における経路発見 137
経路発見の他の諸側面についての研究 139
結論 141
5 認知発達を測る方法としての探索課題 143
Donald P. Marzolf and S. DeLoache
はじめに 143
位置記憶を測定する探索課題 144
子どもの空間シンボルの理解度を測定する探索課題 154
結論 164
6 大規模空間における空間的選択とナビゲーションの研究 165
Tommy Garling, Marcus Selart and Anders
Book
はじめに 165
概念的枠組み 166
空間的選択 168
ナビゲーション 180
要約と結論 191
7 空間学習研究における仮想現実技術の利用 193
Paul N. Wilson
はじめに 193
仮想現実:定義と発展 194
VRと空間研究 203
記憶転移の制約 215
結論 216
REFERENCES 218
索引 242
監訳者あとがき 246
訳者一覧 248
序 章
空間認知は,哲学の中でも最も古くかつ最も白熱した議論を生んだ研究テーマの一つである。「氏か育ちか」をめぐる論争も空間的思考が生得的なものかどうかという点にしばしば焦点を当ててきた(Klein,
1970)。さらに,空間認知研究は心理学の名で行なわれた研究の中でも最も初期からあるもので,後の世紀の研究にもかなりの影響を与えている。心理学分野においてアメリカで与えられた最初の2つの博士号(PhD)は,G.
Stanley Hallの「空間の知覚」(Harvard University,
1878)とJoseph Jastrowの「感覚のずれ(disparate
senses)による空間の知覚」(Johns Hopkins
University, 1886)という空間認知をテーマとするものであった(Klein,
1970)。それゆえ,空間認知の適切なモデルが見られるようになってきたのは,知覚や認知の他の分野と比べると比較的最近だということは意外なことだと言ってよいだろう。このことは,空間能力のつかみどころのなさや,「空間」や「空間認知」という用語が意味するものの曖昧さ,それらが刺激と反応に簡単に分類できないプロセスを含んでいること,などを反映しているのかもしれない。空間認知技能は,行動から推測されるべきものであるが,その行動は刺激と反応の間隙を埋めるものなのだ。リーチングや距離・方向判断といった反応は空間的枠組の中で行なわれている。しかし,その枠組み(より正確にいえば,それら複数の枠組み)の性質は曖昧なままである。多分,こうした理由によって,今から40年以上前には,特に心理学者たちの間では,空間研究やその応用はどちらかと言えば顧みられない分野にとどまっていた(Siegel
& Siegel, 1977)。今日でも,子どもにグラフィックアートや空間技能を教えること,動物と人間における空間技能の進化の道筋,空間技能の基礎となる神経メカニズムなど,要するに動物と人間が自分たちを取り囲む空間に自らを関係づける方法やその手段については,未だ十分には研究されていないのである。
空間認知は幅広い研究領域をもっており,心理学だけでなく,多様な学問分野から成り立っている。その領域は,マクロな尺度の極である地理学や環境計画(e.g.,
Abler, Adams & Gould, 1972; Appleyard,
1970; Lynch, 1960; Downs & Stea, 1973)から,ミクロな極である細胞生物学やレセプターに関する生理学(e.g.,
Butelman, 1989; Muller & Kubie, 1987;
O'Keefe & Dostrovsky, 1971)までの分野を含んでいる。多分,アプローチ方法や関連分野のこのような多様性のため,「空間」という用語の意味するものに一貫性がなくなり,空間技能を調べるためのパラダイムと方法論の幅も広くなり,動物と人間の両方にわたる広範な行動的文脈の中で,それぞれの方法が空間認知の異なる側面を測定するという状況を作り出している。
こうした多様性に対処することはこのハンドブックが取り組んでいる主要な問題である。本書(ハンドブック第1巻)では,特定の実証的パラダイムの専門家が,そのパラダイムの使用,短所,およびパラダイムから生み出される結果について論じている。著者たちは,以下の諸点を理解するための試みに適用されてきた技法について述べている。その諸点とは,(1)発達途上の乳児や子ども,あるいは大人がどのように空間的問題に対処するか,(2)まわりの環境を理解し環境と相互作用するために人間はどのようにして自分たちのまわりの世界を符号化し,またどのような表象を用いるのか,(3)人間はどのようにして,複数の空間的位置の間での探索を行ない,どのようにして空間的判断を行ない,またどのようにして場所から場所への経路を見いだすのか,といった問題である。実験室と実際の生活環境の,両方の状況が考慮されている。また,新しい技術的アプローチも含まれている。これは新しい柔軟性を研究にもたらすものであり,今までは不可能であった環境操作を可能にするものである。特にコンピューターでシミュレートされた環境(仮想現実[virtual
reality])を用いることは(将来の可能性も含めて)空間表象の性質について新しく興味深い問題をもたらすであろう。