行動分析学からの発達アプローチ 

  
シドニー・W・ビジュー
エミリオ・リベス 編
山口 薫/清水直治 監訳
A5判・256ページ 定価[本体3400円+税]
ISBN 4-931199-80-1 C3011 \3400E
2001. 7. 20  第1版 第1刷

目 次
日本版への序文 5
  シドニー・W・ビジュー

第1章 はじめに 9
  シドニー・W・ビジュー
  エミリオ・リベス

第2章 全体の環境と生体が変化する文脈のなかで、学習は行動発達の主要な基盤を提供する 15
  ジェイコブ・L・ゲヴァーツ
  マーサ・ペラエス−ノゲラス

第3章 行動発達の一つの理論とその応用の特徴に関する若干の考察 37
  エミリオ・リベス

第4章 乳児のオペラント学習と馴化 51
  ジェラルド・マルキート
  アンドレ・ポメロー

第5章 オペラント言語獲得パラダイムとその経験的支持 81
  クレアー・L・プールソン
  エフィー・キミシス


第6章 概念的行動の発達を調整する:刺激制御のテクノロジー99
  バーバラ・C・エッツェル
  スーザン・R・ミラ
  M・ダイアン・ニコラス

第7章 発達と因果関係 145
  ジョゼップ・ロカ・イ・バラッシュ

第8章 人間発達の行動分析学におけるセッティング要因 163
  シドニー・W・ビジュー

第9章 行動分析学的発達観 173
  ジーザス・ロザレス−ルイス
  ドナルド・M・ベアー

第10章 児童心理学・発達・人間の行為のパターン化:概念と論点についての評論 207
  ピーター・ハーツェム


 参考文献 219
 人名索引 241
 事項索引 244
 監訳者あとがき 249
 監訳者・訳者紹介 251

日本語版序文 
日本版への序文
 科学のすべての分野でそうであるように、行動の発達も研究と概念化からの新しい知見を得ながら進歩していく。ここに収録された論文の著者たちは、彼らの乳幼児に関する最近の研究を報告し討論することによって、また、児童発達の理論を改善する方途を考察することによって、この進行中の過程に貢献するものである。
 行動発達は、1960年代の始め(Bijou & Baer, 1961)にこのアプローチが始まったことを考えると、児童発達の歴史の新参者である。多くの日本の心理学者と教育家は、英語版を読むか、あるいは1972年に山口薫と東正が、また、1996年に園山繁樹と根ケ山俊介が翻訳した目本版によって、行動発達を知るようになった。
 短い歴史にもかかわらず、行動発達は、実際の応用、特に、問題行動をもつ子どもへの対処、特殊教育、親の訓練に強烈な影響を与えた。その各々について順次簡単に考察しておこう。
 フロイト的、ロジャース的思考が、行動問題をもつ子どもへの心理学的取り組みの初期に現われた。続いて行動的取り組みが、オペラント実験室の方法──あるセッティングにおける先行条件、反応、随伴の交互作用の分析──は家庭、学校、クリニックのような自然なセッティングにおける子どもの研究にも応用できることを示す研究が現われてから、みられるようになった。この方法論に支えられて、研究者たちは、行動原理がきょうだいの争いから自閉症のような極めて複雑な形の子どもの病理にまたがる諸間題への取り組みにうまく応用できることを示した。
 ハンディキヤップのある幼児の特殊教育が導入されたごく初期から、それが効果がないことが明らかになったのは、主に、例外的な子どもたちの特性と教授―学習過程についての仮説と理論がごたまぜであったことによるものであった。状況は徐々に変わりつつある。行動研究によって、教授がプログラム学習という形で行動原理によって行なわれれば特殊教育は効果をあげることができることが明らかにされるようになった。簡単に言えば、この方法は、(a)子どもの能力の評定されたレベルから指導を始め,(b)子どもを自分のペースにあわせて学習を進めるように励まし、(c)進歩を確実にするために、学習結果の記録に基づいて、プログラムと指導手続き、あるいはそのいずれかを修正することによって、教授の個別化をすることである。プログラム学習方式は、特殊教育の教室だけでなく、ポーテージ法のように母親を教師に訓練することによって家庭でもうまく使われている。
 特殊教育のような場では、多くのさまざまな文書化されないプログラムが、親が自分たちで子どもの間題行動に対処できるようにとか、問題行動が起こる前に予防しようということで親に提供されてきた。その基底にある哲学に従って、親訓練への行動アプローチは、2つのステップから出発した。一つは指導助言のもとで親は家庭で自分の子どもの問題行動を効果的に処理できるように訓練できることを示すこと。2つ目は、親が問題行動を建設的に処理したり、その発生を予防するために、書かれた、本のような形の手続きに従って処理できることを示す研究であった。
 この本に掲載されている、3つの実際の応用分野におけるこれらの先駆的努力は、研究と概念化といった面と共に、どんな場所であれ子どもの将来の指導と教育についてわれわれすべてを楽観的にしてくれるはずである。

   2000年9月
シドニー・W・ビジュー
リノ,ネバダ,U.S.A.


監訳者あとがき
監訳者あとがき
1992年に、メキシコ・グアダラハラ大学のエミリオ・リベス教授の招聘により、アメリカ合衆国、カナダ、スペイン、メキシコの4カ国から9名の行動分析学の第一線に立つ心理学者が集まって、メキシコ・グアダラハラで「行動の発達」に関するシンポジウムが行なわれました。
 本書は、そのシンポジウムの討論を基に、各シンポジストが筆を加えて寄稿した論文を、シドニー・ビジューとエミリオ・リベスの両博士が編集し、1996年に出版されたものであります。
 本書の翻訳の計画は、本書に興味を持った東京学芸大学の清水直治が、行動分析学の新進気鋭の研究者として活動している亀井哲宏、山岸直基、井澤信三に呼びかけ、合意が得られた段階で、山口に清水ととともに監訳者になることを頼み、一方出版を引き受けてくれた二瓶社がその間に翻訳権の取得に当たり、また、山口からビジュー博士に日本語版への序文を依頼するという経過で準備が進行しました。
 その後、分担して進められていた下訳がようやく終わろうという段階で、清水は2000年の9月から文部科学省在外研究員として、カンザス大学に赴くことになり、その後の監訳の作業はもっぱら山口が在外の清水と連絡を取りながら進めることになりました。
 監訳に当たっては、訳文を原文と照合して、できる限り原文に忠実にかつ日本語として読みやすいようにと心がけましたが、なお未熟な点があろうかと思われます。ご叱正いただければ幸いです。
 この半年の多くの時間をこの仕事に取り組んで過ごしたことで、私たち自身実に多くのことを学ぶことができました。例えば、山口、清水、亀井が今研究の中心の一つにしている、ポーテージプログラムという発達遅滞乳幼児の早期教育プログラムでは、「発達的アプローチ」と「応用行動分析の原理の適用」を特徴としており、行動分析学からの発達へのアプローチは、まさに我々の最大の関心事でありますので、一字一句を大切にしながら訳業に勤しむことができました。
 さらに個人的なことを付け加えることを許していただくなら、山口とビジュー先生の出会いは、1967年山口がフルブライト研究員としてイリノイ大学に留学したときに始まり──リベス教授も同じ時期にビジュー先生の下で研究をしていました──、以後現在まで35年にわたり、先生には奥様ともども、公私ともに親しくご指導していただいてきました。今、先生の弟子である山口と、孫弟子というべき清水や、そして曾孫弟子とでもいうべき若い研究者がこの本の翻訳に携わることができたことは私たちのこの上ない喜びであり、先生へのささやかなご恩返しにもなるのではないかと思っています。その気持ちを込めて、この訳書を昨年末に亡くなった先生の奥様ジャネットに捧げさせていただくこととしました。
 この本は、発達についての行動分析学的アプローチであり、発達についての心理学的研究の主流になっている幾つかの理論への挑戦でもあります。従って、この本は行動分析学の立場に立つ心理学者はもちろん、異なる立場に立つ研究者にも是非読んでいただきたい。そしてお互いに討論を重ねることによって、発達に関する心理学的研究を飛躍的に発展させたい、というのが我々の願いであります。
 最期になりましたが、出版に当たりお世話になった二瓶社の吉田三郎氏、また、研究者の名前のカタカナ表記についてご教示いただいた宮坂シェリー氏に心から感謝申し上げます。

   2001年6月
山口 薫 
清水直治 



監訳者・訳者紹介
監訳者略歴
山口 薫 やまぐち かおる
1924年10月31日生れ。
東京大学文学部心理学科卒業、同大学院修了。
東京都立青鳥中学校(現都立青鳥養護学校)教諭、文部省初等中等教育局特殊教育課専門職、東京学芸大学助教授・教授、明治学院大学教授を歴任。その間日本特殊教育学会理事長、日本行動分析学会会長、全日本特殊教育研究連盟理事長を務める。
現在、東京学芸大学名誉教授、中国遼寧師範大学客員教授、NPO法人日本ポーテージ協会会長。
[主要著作]「精神遅滞児の病理・心理・教育」(共著、東京大学出版会、1988)「特殊教育の展望─障害児教育から特別支援教育へ─」(共著、日本文化科学社、2000)「学習障害・学習困難への教育的対応─日本の学校教育の改革を目指して─」(編著、文教資料協会、2000)

清水直治 しみず なおじ
1951年2月21日生れ。
東京大学大学院教育学研究科教育心理学専攻博士課程。
東京学芸大学附属特殊教育研究施設助手・助教授。
現在、同上教授。
〔主要著作〕「教育治療法ハンドブック ポーテージ教育法」(共著、福村出版、1993)「発達障害乳幼児の早期療育とCBR活動」(単著、東京学芸大学紀要 49、1998)


訳者略歴
亀井哲宏 かめい あきひろ
1970年6月20日生れ。
東京学芸大学大学院教育学研究科障害児教育専攻修了。
学校法人旭出学園職員、武蔵野市障害児(者)団体「むらさき育成会」職員。
現在、NPO法人日本ポーテージ協会職員。

井澤信三 いざわ しんぞう
1969年5月17日生れ。
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程学位取得修了、教育学博士。
東京学芸大学教育学部附属養護学校教諭。
現在、兵庫教育大学学校教育学部障害児教育講座助手。
[主要著作]「年長自閉症児における『カラオケ』活動を用いた対人相互交渉スキル促進の試み─行動連鎖の操作を通して─」(共著、特殊教育学研究 36(3)、1998)「発達障害生徒2事例におけるゲームスキルの獲得と直接指導していない社会的行動の生起との関連検討」(単著、発達障害研究 22(1)、2000)

山岸直基 やまぎし なおき
1970年 生れ。
駒沢大学大学院博士後期課程満期退学。
現在、駒沢大学非常勤講師。
[主要著作]「人間行動の変動性に及ぼす強化随伴性の効果」(単著、行動分析学研究 12、1998)

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