中城 進 編 A5判・252ページ 定価[本体1905円+税] ISBN 4-931199-76-3 C3011 \1905E 2001. 4. 1 第2版 第1刷 |
医療・看護・福祉の専門課程で学ぶ人のための入門テキスト
目次
第1章 親子関係 9
第1節 母子関係に影響を与える因子 9
1 母親自身の要因 9
2 家族・家庭の要因 11
3 物理的な要因 ──建築構造物── 11
4 所属する文化・慣習・規範という要因 12
5 妊娠中の日常の出来事という要因 12
第2節 胎生期の母子関係 13
1 妊婦の心的過程 13
2 妊娠中のストレスと胎児への影響 17
3 胎児の聴覚と母親の声の学習 17
4 母親の子どもに対する愛着の成立 18
第3節 新生児期の母子関係 20
1 接触行動 20
2 目と目との触れ合い 20
3 サイクルの交換 21
4 エントレインメント 21
5 母乳哺育 21
6 匂いの交換 22
第4節 愛着の母子関係 22
1 愛着とは 22
2 何故に愛着が生ずるのか 23
3 愛着の段階 24
第2章 発達 27
第1節 発達初期の重要性の発見 27
1 ホスピタリズム 27
2 インプリンティング 30
第2節 運動機能の発達 32
1 胎児期の運動機能の発達 32
2 新生児期の運動機能の発達 34
3 乳幼児期の運動機能の発達 35
第3節 言語機能の発達 37
1 新生児期の言語機能 37
2 乳児期の言語機能 37
3 幼児期の言語機能 38
第4節 認知機能の発達 39
1 新生児の認知発達 39
2 乳児期の認知発達 47
3 幼児期の認知発達 51
第5節 発達障害 56
1 精神遅滞 56
2 学習障害 58
3 運動能力障害 58
4 コミュニケーション障害 59
5 広汎性発達障害 59
6 注意欠陥および破壊的行動障害 61
第3章 性格 63
第1節 性格という言葉 63
第2節 性格の理解方法 64
1 性格の類型論 64
2 性格の特性論 67
第3節 性格形成への影響要因 67
1 外的要因 69
2 内的要因 76
第4章 動機とフラストレーション 81
第1節 動機とは何か 81
第2節 さまざまな動機 83
1 生得的動機(1次的動機) 84
2 社会的動機(2次的動機) 86
3 その他の参考となる動機の分類 87
第3節 内発的動機づけ・外発的動機づけ 89
第4節 フラストレーション 90
1 フラストレーションと適応 90
2 フラストレーションとコンフリクト 91
3 フラストレーションと防衛機制(defense
mechanism) 93
第5章 精神障害 97
第1節 精神医学における正常と異常 97
第2節 精神分裂病と他の精神病 98
1 精神分裂病 98
2 妄想性障害 101
第3節 気分障害 101
1 大うつ病性障害(いわゆるうつ病) 101
2 双極性障害(いわゆる躁うつ病) 102
3 気分障害の治療 103
第4節 神経症性障害、ストレス関連性障害および身体表現性障害 103
1 不安障害 104
2 身体表現性障害 105
3 解離性障害(ヒステリー性神経症、解離型) 106
4 適応障害 106
第5節 人格(パーソナリティ)の障害 107
1 精神病に近い人格障害グループ 107
2 情緒不安定なグループ 108
3 不安や恐怖が主となるグループ 108
第6節 脳器質性精神障害 109
第7節 通常、乳幼児期あるいは思春期に初発する障害(小児精神障害) 110
1 精神遅滞 110
2 学習障害 110
3 広汎性発達障害 110
4 注意欠陥/多動性障害(ADHD) 111
5 行為障害 111
第8節 その他の障害 112
1 摂食障害 112
2 睡眠障害 112
3 性の障害 113
第6章 心理療法 115
第1節 精神分析療法 115
1 精神分析とは何か 115
2 精神分析療法の実際 116
3 精神分析における神経症と人格の理論 120
4 精神分析における発達理論 126
5 精神分析療法の応用および有効性とその限界 130
第2節 クライエント中心療法 132
1 クライエント中心療法とは何か 132
2 クライエント自身の人間的成長を目指す 134
3 クライエント中心療法の実際 135
4 人格変化の条件 139
5 自己概念と自己受容 141
第3節 行動療法 144
1 学習理論 144
2 行動療法 147
3 まとめ 156
第4節 森田療法 157
1 森田療法とは 157
2 神経質症発症のしくみ 157
3 神経質症の治療法 161
4 森田理論にとって治るとは 164
第5節 認知療法 166
1 概要 166
2 治療および技法 168
第6節 家族療法 169
1 家族カウンセリングと家族療法 169
2 家族療法の概要 170
3 各学派の特徴 171
第7節 短期療法 173
1 概要 173
2 各モデルの特徴 174
第8節 その他の心理療法 176
1 遊戯療法 176
2 箱庭療法 179
3 芸術療法 183
第7章 社会と人間 189
第1節 対人的行動 189
1 対人認知 189
2 対人魅力 193
3 態度 196
4 社会的促進と社会的抑制 200
第2節 集団的行動 201
1 集団の定義 202
2 集団凝集性 203
3 集団規範 203
4 リーダーシップ 204
第8章 高齢者の心理 205
第1節 加齢と心身機能 205
1 加齢と老化 205
2 心身機能の加齢変化 206
3 感覚・知覚、中枢神経の変化と生活への影響 208
4 心身能力低下の自覚 212
5 作業能力の正当な評価 213
第2節 老年期の疾病 214
1 老年病 214
2 老年期の疾病の特徴 215
第3節 心の病 216
1 痴呆と間違いやすい心の病気 216
2 痴呆症とその心理 219
3 痴呆の診断法 222
第4節 寝たきりをゼロに 224
第9章 終末期 227
第1節 現代における死の諸相 227
1 死の形態の変化 227
2 死の医学化 228
3 つくられた死 229
4 死の認識 229
第2節 デス・エデュケーション 230
第3節 ターミナルケア 231
1 ターミナルケアとは 231
2 ホスピスとは 232
3 全人的ケアとしてのターミナルケア 235
第4節 家族の悲嘆 238
1 予期された悲しみ 238
2 死別後の悲しみ 238
第5節 患者の権利と医の倫理 240
1 病名告知 240
2 インフォームド・コンセントと患者の自己決定権 241
3 安楽死・尊厳死 242
4 臓器移植 242
5 生命倫理 243
参考文献および引用文献 245
「はしがき」全文
私たちは、日頃は何の疑問を持つこともなく、『心』というものを既に十分によく知っているつもりになっております。しかし、一歩立ち止まって『心』そのものについて問い直してみますと、『心』の本質なるものはまるで霞がかかっているかのようです。さらに問いを深めていくと、『心』の本質、『心』の発生過程、『心』の成り立ち、『心』のメカニズム、また『心』の病気のことについてはほとんど何も知らないという事実に私たちは気付かされます。大概の人は、日常の経験のなかで自分や家族や友人の“心”をそれとなく自分流のやり方で理解しようとしてきたことはあっても、『心』そのものについてを学問的・組織的に学ぼうとする機会を得ることはあまりなかったことでしょう。
『心』とは何か。このような問いかけを私たちが発する時とは、自らを一個の人間存在として自己を確認しようとする時でしょう。また、自分が相対している相手がどのような人間であり、その人は何をどのように考えているのかということを知りたいと思った時であるかも知れません。あるいは、自らの心が傷つき、深い落ち込みを体験した時であるかも知れません。激しい落ち込み故に救いを求めて今の自分の“心”の流れを知りたく思う時かも知れません。私たちは、生まれ育ち行くなかで、友をつくり、恋をし、愛を知り、憎しみや怒りや不信や悲しみをも知り、そして生きる喜びと苦しみを知ることになるでしょう。私たちは、家庭や地域や学校や会社や社会のなかでいろいろな人々と触れ合い、愛し合い、憎しみ合いながら、さまざまの感情体験を味わっていくことにもなるでしょう。このような感情体験のなかで、私たちは自らの“心”の動きをそして他者の“心”の動きを知ろうと求めることになるでしょう。
私たちは、テレビや新聞で報道される「異常な事件」の記事を見て、「何故に、この人はそのような“病的行為”をしたのだろうか」と他者の心模様を探りたくなります。何故に、人は“病的行為”を行なってしまうのでしょうか。何が“病的行為”で、何が“病的行為”でないと言えるのでしょうか。“病的行為”や心の病は、どのようにして発生し、進行していくのでしょうか。心の病は治療できるのでしょうか。治療が可能であるならば、どのような治療方法があるのでしょうか。“治療された”という状態は、一体どういう状態のことを意味しているのでしょうか。誰が、どのような基準にもとづいて、どのようなやり方で“治療された”という判定を行なうのでしょうか。この問いは、どのような状態をもって「正常」とし、どのような状態から「異常」と呼ぶのか、その境界を明確にすることでもあります。また、適応概念とも大いに係わりのある事柄です。
これらの様々な問題に応えようとして、『心』や「心の病」についての学問として心理学が誕生し、発展してきました。心理学を学ぶことによって『心』や「心の病」についての見方が、ある面からは豊かになることは間違いありません。また、『心』や「心の病」についての一般的で抽象的な見方を習得することによって、人の心や自分の心の具合を推測することが可能となります。このような意味で心理学を学ぶことは有益だと言えるでしょう。とはいえ、臨床の心理学の知識や技能は万能ではありません。また、臨床の心理学の知識や技能は治療のためのマニュアル(手引き)ではありません。『心』や「心の病」を考えたり推測するための“参考意見”といって良いでしょう。
根源的な疑問や問いが私たちの前にあります。そもそも、何故に“治療”が行なわれなければならないのでしょうか。何のために、何の目的のために、心の病の治療が行なわれるのでしょうか。これらのことは根深い問題を含んだ問いであるように思われます。“参考意見”としての心理学の基礎的知識と技能とを習得しながら、これらのさまざまの疑問や問いに対してご自分で考察を加えていかれることを念願して、このテキストを編集しました。
第2版の編集にあたっては、親子関係を別の章として括り出し、発達の章のなかに発達障害を節として入れ、最近の心理療法も紹介し、また高齢者や終末医療を考察するための章を入れました。そのために、担当なされたそれぞれの章や節において、研究テーマをもってご研究なさっておられる新しい執筆者たちにもご参加して頂きました。
本書の出版に際して、編集の企画に暖かい理解を示して下さいました二瓶社の吉田三郎代表に心よりの感謝を申し上げます。
2001年10月15日
編 者