ジェラルド・B・スクレア 著 市川千秋/宇田 光 編訳 A5判・128ページ 定価[本体1200円+税] ISBN 4-931199-72-0 C3037 \1200E 2000. 1. 25 第1版 第1刷 |
【まえがき & 目次】
訳者まえがき 今日、学校カウンセリングや教育相談の分野では、ブリーフセラピーが脚光を浴びてています。従来の伝統的な治療・病理モデルでは十分ではなく、学校現場にふさわしい、新しいモデルが求められているからです。 スクレアは本著で、ブリーフセラピーの中でも特に解決焦点化(ソリューションフォーカスト)によるブリーフカウンセリング(SFBC)の立場から、教育現場で使える、うまくいく、実践的な進め方を提案しています。この立場では、伝統的な学校カウンセリングと大きく異なり、効率的な介入をめざして、否定的な面よりも肯定的な、解決している側面に、また過去よりも未来に焦点を当て、そして、問題の分析を避け、洞察ではなく行動に焦点を当てる、といった特徴をもっています。 私たちは、この方法を子どもたちに試みてみて、今までにない新しい事実を発見しました。カウンセリングの後で、子どもたちの中に有能感や、達成感、さらには自信などが育ってくることが分かってきたのです。その結果、悩みをもった生徒が相談に来る、問題生徒を送り込む、といった、どちらかといえば閉じた暗いイメージから抜け出し、元気のでる明るいイメージのカウンセリングや教育相談が可能となってきました。生徒一人ひとりの有能感や達成感、自信を育てることは、学校教育のめざす本来の姿だと考えられます。今までは、問題に焦点を当て、分析し、問題をなくすことに努力が注がれ、解決状態を見つけたり、うまくいっているところを賞賛したり、さらに、未来に焦点を向けることには視点が向けられてきませんでした。自信をつけ希望に満ちた、元気のでるやり方は、学校関係者にとって願ってもないことだと言えるのです。 ところで、スクレアは本書で、自らの小学・中学・高校での教師ならびにカウンセラーの経験を基にして、解決焦点化ブリーフカウンセリングを具体的にどう進めればうまくいくのかを、実に分かりやすく述べています。例えば、目標設定の仕方、うまくいっている事柄に気づく方法、質問の仕方、メッセージの作り方、解決への道筋をたどって一歩一歩進んでいく工夫、さらに豊富な練習問題など、新しい提案が随所になされています。そして、荒れる学級に適用できる、解決焦点化による学級カウンセリングの進め方も紹介しています。まさに、教育現場でうまく使えるように、現場サイドからの工夫・配慮がなされているのです。 今日、いじめや荒れる学級など深刻な問題を抱えている日本の教育現場においても、解決焦点化ブリーフカウンセリングが教師や学校カウンセラーの方々に受け入れられ、深刻な問題の解決の一助となれば、大層ありがたく思います。 まえがき 本書は、解決焦点化(ソリューションフォーカスト)ブリーフカウンセリング(SFBC)を、小学・中学校でどのように使うかについて、ステップごとに示したものである。学校カウンセラーは特に、典型的な現代の生徒の心配ごとを踏まえて読むことができる。 学校管理者や教師もまた、本著から利益を得る。なぜなら、本アプローチの各構成要素は様々な場面で別個に取り出して用いることもできるからである。学校の内外で若者と取り組んでいるスクールサイコロジスト、ソーシャルワーカー、専門のカウンセラー、ドラッグカウンセラーなど他の専門家は、事例研究が特にピンとくるだろう。解決トーク(解決に焦点を当てた話し合い)を導く技法により、教育者はいさかいを減らし、関係を改善し、若者に責任をとるよう教え、支持的な環境でよりよい決定をすることが可能となる。 本著は意図的に短くしてあり、理論は簡単にしか述べていない。しかし、実践こそが主な推進役である。ここでは、読者が教材を一度に1ステップずつ読むように導く。そして1章から4章の最後には練習問題を設けている。私は、子どもたちにSFBCを適用するのに必要な知識を、読者に提供したいと思っている。 SFBCは革新的な最近のアプローチであり、学校には理想的でよく合うものである。なぜなら、学校カウンセラーをしばしば妨げる多くの落とし穴に打ち勝つことができるからである。ケース負担は生徒500人を超える場合がよくあり、伝統的な長期のカウンセリングを生徒に提供する時間はほとんどない。当然、カウンセラーはジレンマに陥る。カウンセリング養成コースではふつう、学校で使うには難しいようなカウンセリング理論を強調する。今日では今まで以上に、ある範囲の問題に適した、焦点を当てたアプローチを、カウンセラーは必要としている。 解決焦点化カウンセリングは、他の理由からみても同様にタイムリーである。最近の教育界では、学校の人員配置に関して現場サイドに多くの裁量を与えている。学校カウンセラーはこれまで、校長の要求やカウンセラーの役割を校長がどう見るかに気を配ってきた。1章で述べるように、リストラの動きによってカウンセラーは、人事上の決定力を持つ多くの人々の声に応えている。もしカウンセラーが、子どもの学業や行動上の、また対人的な困難を直せる方法を提供して、自分たちを目立たせ名をあげられないなら、職を失うかもしれない。こうした説明責任への圧力が増すにつれて、観察できる素早い変化を生徒にもたらすアプローチを、カウンセラーは必要としている。 内容について 本著は、SFBCを開発したディ・シェイザーの研究(1985)に基づいている。ディ・シェイザーは、問題ではなく解決に目を向けることで、クライエントが従来のカウンセリングよりも早くよくなることを発見した。このモデルでは、クライエントが必ずしも問題に打ち負かされている訳ではない、という信念が込められている。事実、解決は気づかれなくても実際のところ存在しているのである。リソースを再発見させることで、過去にうまくいったことを繰り返すようクライエントを、励ます。これは単純に聞こえるが、ダイナミックスに満ちており、クライエントはカウンセリングに来る理由となった困難を素早く解決することができる。 1章では、SFBCの背景と論拠、ならびに学校カウンセリングとの具体的なかかわりを示す。解決焦点化の小さな体験を通して、そのプロセスを読者なりに、学校カウンセラーの目で探ってもらう。 2章では、生徒を解決焦点化カウンセリングにどのように備えさせるか、最初の目標設定の段階をどう進めるかを、例を挙げて示す。一歩一歩進むやり方で、目標達成のために生徒が何をするのかを行動レベルで明らかにするよう援助する。「ミラクルクエスチョン」では、問題がないなら人生がどのようであるかを思い描いてもらい、生徒が目標を探りやすくする方法を学ぶ。 3章では、困難の例外や、気づいていないうまくいっている事柄を生徒に気づいてもらう方法を述べる。「励まし」を通して、勇気づけるやり方を学ぶ。励ますことで、よりよい状況を求めて生徒が用いた僅かにうまくいくステップさえをも力づけるのである。また、目標に向かう進歩や現在の状態について、生徒が自分で査定するのに使えるスケーリングクエスチョンも扱う。終わりに、メッセージづくり(賞賛、つなぎの言葉、課題)のための詳しい教示を述べる。生徒は、このメッセージを面接が終わるたびに受け取るのである。練習問題を通して、これらのステップを一人ひとりの場面に適用する機会が与えられる。 4章では、2、3章のように分けず、全体の流れが分かるように実際の生徒の一事例を引用する。この事例には、本アプローチの過程と実践とをつなぐ解説が含まれている。 5章では、2回目以降の面接で使用する介入について扱う。こうした介入は、最初のミーティング以降に生徒が経験したうまくいった事柄に向けられる。また、生徒の進歩を明らかにするために、その後の面接で使われるスケーリングの介入についても述べる。 6章では、解決焦点化アプローチの新しい適用方法を述べる。紹介用の書式を使って、「カウンセリングの結果、生徒に期待する具体的な行動」「生徒がすでにうまくやっていること」を、紹介者に述べてもらうやり方を学ぶ。さらに、クラス全体や小集団での解決焦点化アプローチの実践方法について、詳細な事例を示す。 |
目 次
第1章 学校でのカウンセリング 1
新しい解決 4
中心をなす哲学7
解決焦点化の前提9
その他の導いてくれる概念 12
概念1 問題の分析をさける 12
概念2 効率的な介入をする 13
概念3 現在と未来に目を向ける 13
概念4 洞察ではなく行動に焦点を合わせる 14
要約 15
練習問題 16
第2章 目標を定める 19
初回面接を始める 19
目標を練る 21
肯定的な目標 21
否定的な目標 22
有害な目標 25
「私には分からない」目標 26
乗り気でないクライエントをカスタマーに変える 26
事例研究 27
ミラクルクエスチョン 30
限定されない奇跡 31
ありえない、ありそうもない奇跡 33
「相手に変わって欲しい」奇跡 34
「他に何か」という質問 35
よく練られた目標を立てる 36
事例研究 38
要約 40
練習問題 40
第3章 解決を見つけて構成する 43
気づいていない解決を再発見する 44
生徒のリソースに目を向けさせて力を与える 46
心の地図づくり 47
励まし 48
基準点と進歩をスケーリングする 51
基準値目標達成を測定するためのスケーリング技法 52
改善へと導く行動をはっきりさせる 53
地雷原に旗を立てる 53
メッセージを与えて最初のセッションを締めくくる 54
メモ取り 55
賞賛 56
つなぎの言葉 59
課題 59
要約 62
練習問題 63
第4章 構成要素をつなげる 65
初回セッションの構成要素 65
1 どういったわけで私に会いに来たのでしょうか? 君の目標は何でしょうか? 65
2 ミラクルクエスチョン 66
3 最初の兆し 66
4 うまくいっていることと問題の例外 67
5 0から10までのスケーリング 68
6 メッセージ作り 69
初回面接の事例 69
要約 81
練習問題 82
メッセージ 82
第5章 2回目以降のセッションを導く 83
その後のセッションの要素 84
引き出す 84
広げる 86
強化する 86
スケーリング 87
改善を示す評定 87
改善がみられないことや後退を示す評定 87
さらにカウンセリングが必要かを査定し、メッセージを書く 88
2回目以降のセッションでの面接のロードマップ 89
その後のセッション、ペドロの例 89
要約 91
第6章 解決焦点化の考えを広げる 93
20分間のセッション 94
スケーリング 94
最高の評点に到達したことを確定する 95
さらに高いレベルに移動する 96
メッセージ―課題 97
簡略版解決焦点化カウンセリングの事例 98
30秒カウンセリング 99
カウンセリングを紹介する書式 100
解決焦点化グループと学級カウンセリング 100
グループカウンセリング 100
学級カウンセリング 103
要約 107
最後の考察 107
参考文献 109