浅井学園大学生涯学習叢書・7

学習社会の振る舞いと研究(1)

  
藤原 等 監修
浅井学園大学生涯学習研究所 編著
A5判・217ページ 定価2,604円(本体2480円+税)
ISBN 4-86108-030-4 C3037 \2480E
2006. 3. 25  第1版 第1刷

目 次

 序 浅井学園大学生涯学習研究所
第1章 地域社会が育んだ産育儀礼 小田嶋 政子
第2章 伝統的建造物群の観光活用とその楽しみ方
  ──望ましい保存活用を目指して── 菊地 達夫
第3章 北海道における子どもの心の健康問題に関する報告
  ──教師からみた子どもの変化と保護者の変化── 今野 洋子
第4章 地域文化と公共劇場
  ──利用者(地域)が劇場をつくる── 森 一生
第5章 冬季凍結路面歩行時のスリップ転倒に関する事例報告 山本 敬三
第6章 地域保健と学校保健の連携による健康教育実践 中出 佳操
第7章 MGによる経営の模擬学習体験 沓沢 隆
第8章 童謡「赤い靴」の母子愛と現代の幼児虐待 村井 俊博
第9章 金沢の学生による木造・煉瓦の体験学習 水野 信太郎
第10章 携帯電話ホームページによる電子メールシステムの制作 山本 正八

  監修・編集者紹介
  監修・執筆者等一覧

   カバー装画 阿部 典英
   扉絵 野崎 嘉男

序 
 本研究所の叢書も第7巻を数えることになりました。2005年4月から大学名称が「浅井学園大学」になりました。「北海道浅井学園大学」から変わったのです。したがって、本研究所の正式名称も「浅井学園大学生涯学習研究所」になり、同時に、本叢書も「浅井学園大学生涯学習叢書」となりました。本叢書の第1巻の名称は「北海道女子大学生涯学習叢書」、その後、「北海道浅井学園大学生涯学習叢書」という名称を経て、この第7巻から「浅井学園大学生涯学習叢書」になったというわけです。第1巻の北海道女子大学生涯学習叢書「生涯学習社会の課題探究」は、1999年1月の出版でしたから、この約7年間の、この急速な名称変更は何を物語っているのか今後検証が必要かもしれません。
 私見ではありますが、アメリカ発の経済のグローバリズムが、わが国社会にも上陸し、あっという間に、社会のあらゆる分野、制度にも波及し、わが国の教育制度にも深く浸透しています。とりわけ、初等教育、中等教育に比べて高等教育においてそれが強く影響しているようにも見えます。
 そしてまた、学校教育よりも社会教育に大きな影響をもたらしているのではないかと見ています。アメリカ発の経済のグローバリズムが大津波となってわが国の社会教育に襲いかかっているように思えます。学校教育は生涯学習の基礎・基盤を培うわけですが、もちろん、この大津波は、学校教育をも飲み込んではいるのですが、生涯学習の本体とも言える学校外教育、とりわけ社会教育という生涯学習の中心部分に壊滅的打撃を与えようとしているようにも見えるのです。
 北海道の各市町村の2006年度予算の中で、社会教育関係予算がどのようになっているのか、この10年間くらいでも良いので比較検討されると答えが見えてくるでしょう。そのような中で、高等教育機関の中でも、とりわけ私立大学もまたその大津波に翻弄され続けています。しかし、大学には、教育と研究という柱のほかにもう一本、社会貢献、つまり地域貢献という責務が近年、課せられるようになってきました。特に、地方の私立大学は、地域に依拠しなければ今や生き残ることはできないのではないでしょうか。まあ、そのようなことを本研究所の一員として考えているということなのです。
考えてみれば北海道開拓は、明治政府直轄の北海道開拓使(北海道庁の前身)及びそれにつながる人々と、それらとは関係のない「本州で食べていけなくなった」人々(移民であり、流浪の民のような)との混沌のなかでおこなわれたと考えられますから、政治、経済、教育その他の分野においても中央政府依存体質が深く浸透しています。ところがここに来て中央政府の危機的財政状態の現状から依存的でばかりはいられなくなってきて、さあ、どうするか。圧倒的多数の移民であり、流浪の民の末裔たちの一部が、しぶとく北海道内各地に定着し、道内各市町村として独自色を出そうとしているのです。ある意味で、この面での地域間格差のようなものとなって拡がりつつあるようにさえ見えます。移民の孫や曾孫たちの世代に移った北海道は、「財政がないので何もできそうもないと思い込んでいる」派と「財政がなくても知恵で生き残り、金を生み出そうとする」派の間で格差が拡がりつつあるようだと言っているのです。
 そして、かつて北海道には生涯学習の原点のようなものがあったことにも気づくべきです。それは、例えば新渡戸稲造先生が始めた「遠友夜学校」です。この夜学校は、学習したくてもその機会に恵まれなかった子どもたちや青年たちのために「新しい北海道をつくる人になるための知恵」を授ける目的(理想)で札幌農学校の教師や学生たちによるボランティア活動により支えられた生涯学習の場でありました。
 また作物病理学(ウィルス学)の世界的権威であった樋浦誠先生が北海道大学から酪農学園にあえて転じて、北海道内はもとより全国の農村青年たちに実学としての「愛人・愛神・愛土」の三愛精神を説く「三愛塾」を、今日でいう出前講座として開講し、各地に学習拠点を作ろうとしたことなど、幾多の先進的な生涯学習的振舞いがあったことを今一度回帰してみることが必要になってきていると思っているのです。北海道の再生はこんなところに隠されているのではないでしょうか。
本叢書第7巻、第8巻には合計36本の投稿があり、第1次査読、第2次査読を通して20本の論文にしぼり、各巻各10本を収録しました。カバー装画は阿部典英所員、扉絵は野崎嘉男所員にお願いしました。全投稿者並びに2人の所員に記して感謝申し上げます。投稿者の中に新しい顔が見えたということは最高に嬉しいことです。この第7巻の第1章から第10章までの掲載順は、論文のできばえによるものとは何ら関係がないことも明記しておきます。
 また二瓶社社長吉田三郎氏、同社編集部の駒木雅子氏に大変お世話になりました。感謝申し上げます。最後に、本研究所内の、本書に関するもう一人の編集係、森一生先生のお名前を記し深甚なる謝意を表し、序文とします(藤原等記)。

2006年3月

春を待つ厳冬の野幌原始林、 エゾリスが遊ぶ文京台にて。
編著者 浅井学園大学生涯学習研究所

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