阪南大学叢書76
マルチメディア情報学概論
田上博司 著 IT技術が駆使される時代。すべての人にマルチメディア情報の利用が求められている。本書はその全体像を把握するための入門書である。 A5判・328ページ 定価2,604[本体2,480円+税] ISBN 4-86108-028-2 C3055 ¥2480E 2006. 1. 16 第1版 第1刷 |
もくじ
前書きに代えて ― マルチメディア情報学研究を志す人へ 1
第1章 マルチメディアの成立 7
1-1. マルチメディアとは何か 8
1-1-1. 複合情報媒体 8
1-1-2. マルチメディアの意義 9
1-2. コミュニケーションとコンピュータ 11
1-2-1. コンピュータと情報 11
1-2-2. コミュニケーションツールとしてのコンピュータ 12
1-3. マルチメディアの誕生 16
1-3-1. マルチメディアの萌芽 16
1-3-2. GUIの誕生 ― パーソナルメディアとしてのパソコンへ 17
1-4. マルチメディアの普及 21
1-4-1. コンピュータの大衆化 21
1-4-2. マルチメディア環境の普及 23
第2章 コミュニケーション・メディアとしてのマルチメディア 27
2-1. コミュニケーションとメディア 28
2-1-1. 音声言語と文字 28
2-1-2. マスコミュニケーション 29
2-1-3. 文字の符号化 30
2-2. メディアの意味と階層性 33
2-2-1. メディアの意味 33
2-2-2. 文字メディアによる情報伝達の構造 34
2-2-3. さまざまなコミュニケーションモデルと情報通信の階層性 36
2-2-4. メディアの階層性 39
2-2-5. ディジタルメディア 40
2-2-6. ヒューマン・コミュニケーション 42
2-3. ノンバーバル・コミュニケーションとマルチメディア 44
2-3-1. ノンバーバル・コミュニケーション 44
2-3-2. 画像とコミュニケーション 45
2-3-3. 音とコミュニケーション 47
2-3-4. 音と光の符号化 49
2-4. インターネットとマルチメディア 50
2-4-1. マルチメディア情報のメディア 50
2-4-2. インターネット小史 51
2-5. マルチメディアと感性情報 53
2-5-1. マルチモーダル・コミュニケーション 53
2-5-2. 視聴覚情報による直接コミュニケーション 54
2-5-3. 知識情報と事実情報,感性情報 56
2-5-4. 感性情報通信 58
2-5-5. パラ言語と感性情報 59
第3章 マルチメディアの要素技術 61
3-1. マルチメディアデータの種類と性質 62
3-1-1. マルチメディアの構成要素 62
3-1-2. 静的オブジェクトと動的オブジェクト 64
3-1-3. マルチメディアコンテンツ 66
3-1-4. オープンメディアとパッケージメディア 71
3-2. ラスタ画像 73
3-2-1. ラスタ画像の原理 73
3-2-2. 画像のサンプリング 74
3-2-3. 解像度 75
3-2-4. ディスプレイとプリンタ 76
3-2-5. 色の符号化 78
3-2-6. カラーコード 80
3-2-7. ラスタ画像データの生成 81
3-3. 画像編集 83
3-3-1. 画像編集ソフト 83
3-3-2. 新規作成または画像の読み込み 83
3-3-3. レイヤ(layer) 84
3-3-4. 部分選択 85
3-3-5. カラー調整 85
3-3-6. コントラスト調整と2値化 86
3-3-7. 画像効果 87
3-3-8. 画像の保存 95
3-4. ベクタ画像 96
3-4-1. ベクタ画像の原理 96
3-4-2. ベクタ方式による曲線の表現 97
3-4-3. ベクタ方式による作画 98
3-4-4. ベクタ図形の特性 99
3-4-5. ラスタライゼーション 101
3-5. 静止画像ファイルの形式とデータ圧縮 103
3-5-1. 静止画像ファイル 103
3-5-2. データ圧縮法 117
3-6. 3D-CG 133
3-6-1. コンピュータグラフィクス(CG) 133
3-6-2. 仮想3次元空間の設定 133
3-6-3. 3次元モデル 135
3-6-4. モデリング 135
3-6-5. レンダリング 140
3-7. 動画像 145
3-7-1. 動画の原理 145
3-7-2. 動画データ 146
3-7-3. 動画データの圧縮とCODEC 148
3-7-4. 動画像ファイル 168
3-7-5. ノンリニア・ビデオ編集 172
3-7-6. アニメーション 178
3-8. 音 182
3-8-1. 音とは何か 182
3-8-2. 音の要素 183
3-8-3. 音の数値化 184
3-8-4. 音のサンプリングとPCM 185
3-8-5. 音場の再現と創造 187
3-8-6. 空間エフェクト 190
3-9. オーディオデータ 194
3-9-1. オーディオデータの圧縮 194
3-9-2. オーディオファイル 199
3-9-3. オーディオデータの編集 201
3-10. MIDI 204
3-10-1. 演奏の符号化 204
3-10-2. MIDIのしくみ 205
3-10-3. シーケンサとDAW 207
3-10-4. DAWの構造 209
3-10-5. General MIDI(GM)とその拡張規格 210
第4章 マルチメディアの応用 213
4-1. ツールとしてのマルチメディア 214
4-1-1. Webページ 214
4-1-2. 音声処理 216
4-1-3. 画像解析 222
4-1-4. DTM(Desk Top Music) 223
4-1-5. DTP(Desk Top Publishing)もしくはDigital Publishing 227
4-1-6. CAD(Computer Assisted Design) 228
4-1-7. GIS(Geographic Information System) 229
4-1-8. ナビゲーションシステム 231
4-1-9. マルチメディアインターフェース 233
4-2. 商品としてのマルチメディア 236
4-2-1. コンテンツビジネス 236
4-2-2. ディジタルゲーム 242
4-2-3. モバイルコンテンツ 252
4-2-4. マルチメディアとVirtual Reality 258
第5章 マルチメディアと社会 265
5-1. メディアと社会 266
5-1-1. メディアが社会を変える 266
5-1-2. 人間機能拡張としてのマルチメディア 267
5-2. マルチメディアとビジネス 274
5-2-1. 企業活動とマルチメディア 274
5-2-2. マルチメディアとアドバタイジング 275
5-2-3. マルチメディアとeコマース 277
5-2-4. マルチメディアとeビジネス 280
5-3. 家庭生活とマルチメディア 282
5-3-1. 家庭用視聴覚機器の統合と情報家電 282
5-3-2. 携帯電話の変質 284
5-3-3. マルチモーダル・テレコミュニケーション 286
5-4. マルチメディアと著作権 288
5-4-1. 知的財産と知的財産法 288
5-4-2. 著作権と特許権 289
5-4-3. マルチメディアにおける著作権の特質と問題点 291
おわりに 301
参考文献 303
参考Webサイト 306
索 引 307
前書きに代えて ― マルチメディア情報学研究を志す人へ
マルチメディア情報という研究分野は幅が広い。また幅が広いだけではなく漠然としていて少々掴みどころがない。
これは,マルチメディア情報というものが,実はある意味で情報の本質であるからだと思う。マルチメディア情報学というのは,形を変えた情報学そのものであると言っても過言でないかもしれない。
もちろんマルチメディア情報学と題するからには,画像情報や音響情報を主に考えていくわけであるが,マルチメディアには文字メディアも包含されるので,そこには文字情報との絡みが出現する。文字情報は言語情報を前提にするので,そうなるとヒューマン・コミュニケーションのほぼすべてが対象となる。
通信という技術的トピックを取り上げても,ブロードバンドがなぜ必要かといえば,そこにマルチメディアデータを流すためである。ほんの10年前には企業と銀行が,さしたる不都合もなしに2400bpsでデータをやり取りしていた時代があるのだ。かくてブロードバンド化技術はマルチメディア情報の一部ということになる(ただし本書では通信技術は扱わない)。
現実に世間ではマルチメディアという言葉さえ,あまり聞かれなくなってきた。それは,情報=マルチメディア情報という図式がなかば常識化してきていることの証左なのかもしれない。
それでも,本書はあえて「マルチメディア」に拘泥した。それは,情報伝達が複数のモードで行われ,そのそれぞれに伝達媒体=メディアが存在するという,人間同士の直接コミュニケーションならごくあたりまえのことが,今ようやく「マルチメディア」コンピュータというコミュニケーションツールを得て,情報通信の世界でも可能になったこと,またそれによって,逆にヒューマン・コミュニケーションに革新的変化が起こり得ることを,はっきり認識しておく必要があると考えたからでもある。「マルチメディア」情報学の本質的役割はこのあたりにあるのではないだろうか。
しかし,漫然とこのやっかいな対象に対峙していても効果的な理解は望めない。マルチメディア情報を学ぼうとする人たちが,気がつけば単に描画ソフトやDV編集ソフトの利用技術の学習に終始していたというのはよくある話である。
このような状況に陥らないためには,そのアプローチの方法を予め考えておく必要がある。筆者は,マルチメディア情報研究には4つのルートがあると考えている。(1)コミュニケーション論・情報論的アプローチ,(2)要素技術・情報工学的アプローチ,(3)社会論・情報文化論的アプローチ,(4)表現技法・芸術学的アプローチである。これらそれぞれについて,少し説明しよう。
(1)コミュニケーション論・情報論的アプローチ
マルチメディアをヒューマン・コミュニケーションのツールとして捉え,情報学やコミュニケーション学,心理学の観点から研究する立場である。人間系との関わりを最も多く含む分野であり,情報とは何かという根源的課題に関連するアプローチである。他のアプローチも最終的にはこの分野を開拓するための基礎研究であるという捉え方もできる。
(2)要素技術・情報工学的アプローチ
マルチメディアを構成している各要素に使用されるディジタル技術を情報工学的に研究する。研究分野はさらに細分され,静止画技術・動画技術・音響技術,さらに人工触覚などのVR技術およびそれらの混合分野となる。数学の知識,物理学の知識,ディジタル技術に関する工学的知識,および各分野の専門的知識を必要とする最も理系的なアプローチであるが,今後のマルチメディア技術の発展を支える重要な研究分野である。
(3)社会論・情報文化論的アプローチ
情報文化論やメディア論を中心に,社会におけるマルチメディア情報の役割や特質,これまでのメディアとの相違などを研究分野とするアプローチ。現在あるいは将来におけるさまざまな社会的局面に対するマルチメディア情報の有用性・問題点を研究し,それが経済や文化,あるいは社会そのものに与える影響を考えていく。多分に社会科学的なアプローチといえる。
(4)表現技法・芸術論的アプローチ
マルチメディア情報が用いられるさまざまな局面での表現技法を研究対象とするアプローチであり,マルチメディアを用いた新しい表現やその芸術性を開拓する分野である。アートの分野と深いかかわりを持ち美術や音楽に関する知識を必要とする。最もクリエイティブなアプローチであるともいえる。
ただし,これらのアプローチはそれぞれが完全に独立して存在するわけではなく,研究を進めていけば複数のアプローチが必然的に必要になってくることもあるだろう。
ただ研究の端緒として,これらのアプローチ法が有効だろうというだけのことである。
本書ではこれらのうち,コミュニケーション論,要素技術論,社会論の3方面のアプローチから,マルチメディア情報の全体像を浮き彫りにしていく。
第1章では,コミュニケーションとメディアおよびコンピュータに関して,主に社会論的立場からマルチメディアが誕生するに至った経緯を解説する。
第2章では,主にメディア論,コミュニケーション論の立場から情報伝達媒体としてのマルチメディアを捉え,その構造と情報伝達のメカニズム,またその特質などを説明する。
第3章では,マルチメディア情報を構成する要素技術について,現在実用化されている静止画像,動画像,音,楽音コントロールの各トピックを解説する。ただし,工学的専門書やソフトウェアの解説書を標榜するものではないため,できるだけその基本原理の理解に重点を置くようにした。また,文系の研究者にとって敷居の高い数式の使用は極力避けるようにしたので技術解説書としては多少不十分な面がある。技術解説は本書の主旨とするところではなく,各分野について秀逸な書籍が多数世に出ているので,そちらに委ねることとしたい。
第4章では,現在実用化されているマルチメディア技術を応用したシステムのうち,代表的なものを取り上げてその内容を紹介する。またマルチメディア情報そのものが商材となる例についても考察する。
第5章ではマルチメディア情報がわれわれを取り巻く社会的環境の中でどのように使われているか,どのような問題点を持っているか,あるいは将来においてどのような利用法が考えられ,それが社会にどのような影響を及ぼす可能性があるかを解説する。また過去においてマルチメディアへの誤解から生まれたeコマース(電子商取引)における失敗例や,マルチメディアと著作権の問題などにも言及する。
本書は,これからマルチメディア情報学の研究を志す人や,ビジネスにおいてマルチメディア情報を利用しようとする人が,マルチメディア情報の全体像を把握するための概論書・入門書として執筆した。
読者諸兄がマルチメディアを理解するうえで,本書がひとつの道標となればこれに勝る喜びはない。
田上博司
著者紹介
田上 博司 たがみ ひろし
1954年大阪府生まれ
神戸大学経営学部経営学科卒
帝塚山学院大学メディアセンター副センター長,帝塚山学院総合情報センター長を経て,現在阪南大学経営情報学部助教授
ゲーム学会理事
NPO法人環境教育振興協会理事
主な著書に「IT入門」(二瓶社,2001年),「ITの英語」(NOVA,2001年),「デジタルサウンド・プロセシング」(二瓶社,2003年),「インターネット時代の経済・ビジネス」(編・著,税務経理協会,2005年)など