北海道浅井学園大学生涯学習叢書・6

学習社会の教育と学習

  
浅井幹夫・藤原 等 監修
北海道浅井学園大学生涯学習研究所 編著
A5判・214ページ 定価2,604円(本体2480円+税)
ISBN 4-86108-021-5 C3037 \2480E
2005. 3. 25  第1版 第1刷

目 次

 序 北海道浅井学園大学生涯学習研究所
第1章 情報教育の一環としての日本語教育 小杉 直美
   ──生きる力と情報活用──
第2章 組織キャンプにおけるベネフィット・セグメンテーションの検討 山田 亮
第3章 生涯学習における青年期の課題 中出 佳操
第4章 生涯発達研究と弱視児Cさんの9年の歩み  藤原 等
第5章 生涯学習支援システムの教育方法に関する研究 山本 正八
第6章 思考が導く価値行動  田口 智子
  監修者紹介
  監修・執筆者等一覧

   カバー装画 阿部 典英
   扉絵 野崎 嘉男


はじめに 
 今、北海道は、このままでいけば赤字再建団体に陥るのではないかと予想されています。経済不況が、底を打ったという実感からは北海道では程遠く、相次ぐ自然災害にも追い討ちされる中で、三位一体の改革が「北海道」という地方にも押し寄せています。
 そんな中で市町村合併問題や道州制の論議が現実のものになろうとしています。なろうとしているのではなく、まさに地域住民に、合併か、単独での生き残りかの二者択一の刃を突きつけているのです。
 合併問題をめぐって隣接しない飛び地の町村同士の合併が合意されたり、法廷合併協議会から、一つの町村が離脱したことでその後の協議が中断されたりもしています。また、市町村合併をめぐり首長の意見(首長・議会の意見と地域住民の意見が)と議会や地域住民の意見とが対立しリコール問題に発展したり、小さな町村であっても合併をめぐる住民投票の結果を尊重し単独での生き残りを選択したところもあります。10年後、20年後の予想人口が減少することを知り、町村合併直後の人口が、「市」となり得る条件を満たしていても、身の程を知る中であえて「市」にはならず「町」のままで行こうという議論も出ています。
 また、対等合併なのか、吸収合併なのかを巡り激しいやりとりや駆け引きも見られます。合併後の議会の定数と議員の選出方法(選挙)をめぐって現実的なやりとりもあります。つまり、合併後は、一つの自治体になるわけですから全市(町)が一選挙区になるのは当然であるという考え方がある一方で、合併前の市町村をそれぞれ選挙区として位置付け、合併後の市町村に複数の選挙区を設けるという考え方の二つが存在しています。
 前者では、選挙になった場合、旧市部を地盤にしていた候補者(議員)には有利であるが、旧町村部を地盤にしていた候補者(議員)には不利であるという思惑が働いているのです。当選に要する最低得票数の問題があり、地域が、故郷が、喪失するのではないかという心配があるわけです。後者は選挙になった場合、旧町村部を選挙区として位置付け、それぞれに定員を割り当てることから、新議員がある程度、地域の代弁者として、地域の諸問題を合併後の新市町村議会に反映することができるのではないかという考え方です。
 更に、合併協議とそれを見守る地域住民の本音に近い心配は、合併後の本庁舎をどこの地区に置くのかという問題です。合併後の本庁舎までの距離が住民の直接的な利害関係に結びついているからなのです。つまり、将来、新しい町の中心街が新本庁舎設置地区に移動するのではないかという心配なのです。
 また、それぞれの総人口が違う複数の町村合併では、総人口が多い町村から見れば、対等合併は許容しがたい問題のようでもあります。吸収合併であるべきだというのです。その逆もあって、吸収合併は故郷喪失につながるという悲壮感と結びつき容認しがたい問題として提起されています。人口が多くても、少なくても自治体としては対等の立場でありますから、民主主義の原則からみれば対等合併であるべきだというわけなのです。合併後の市町村名も大きな問題とされています。
 また平成の大合併といわれるこの市町村合併問題で、もう一つ注目したいことは、市町村それぞれの段差はありますが、住民投票を実施し、それぞれの首長の意識には温度差はあるが、おおむねその結果を尊重するという状況が生まれていることです。ある町では、住民投票に18歳(20歳以上の年齢を引き下げて)以上の住民による一般投票と同時に小学校5年生以上高校3年生までの年齢(中学校卒業で働いている人も含めた年齢)の子どもにも投票してもらったという画期的な投票を実施したのです。子どもの投票結果については首長が参考にするという条件をつけてのことではありますが、自分たちの市町村の命運を次代を担う子どもたちにも意識させると同時に、ある程度の方向性についての意見を聴取するということは特筆に値することであったと思います。我が町、我が故郷は、大人たちのものだけではない。子どもも貴重な住民なのだという自治意識はやがて、この町の故郷づくり、地域活性化の原動力になるのではないかと思われます。
 このように、今回の全国を対象としたこの市町村合併問題の中で住民の投票によって判断しようという行いが複々数の町村で実施され、実施される予定であるということは、これからのわが国社会の在り方に極めて重要な示唆を与えてくれています。このことは、地域の形成を住民の協治、協働の力で推進するのだという新しい芽生えであり、21世紀の日本のフロンティアになり得るものであると考えるからです。戦後、民主主義の一つの成果のような気がします。
 一方、北海道の比較的大きな市部の住民は、自分たちの市は合併に関係がないので、この市町村合併問題の深刻さを今のところ、それほどにも感じていないようにも見えます。ところが、合併問題に直面している市町村の住民は、自分たちの町や村の将来像がどのようになるのか、地域とは何か、故郷とは何か、開拓時の祖先の想いにまで遡り、現在と未来に思いを馳せているのです。地域活性化、新しい地域創造を目指しての議論を沸騰させているのです。学習が深化したのです。この違いは何なのか、考えておく必要があると思われます。
 北海道 212市町村を二分しているこの合併問題をめぐる議論の温度差が極めて気がかりです。この温度差が今後の生涯学習推進のエネルギーに直結するのではないかと考えるからです。単なる地方交付税の切り下げ等として考える市部と、地方交付税の切り下げ等と連動した市町村合併問題として突きつけられている市町村部との温度差は、今後の「まちづくり」にも影響を与えるのではないかと思われます。その具体例の一つとしては、教育行政の在り方にも深刻な影響が出てくるのではないかと考えられます。予算削減や人員削減に悩むことだけで良い自治体と市町村合併で自分たちの市町村そのものが(教育行政そのものが)なくなってしまう自治体とがあるということなのですから。このようなことから、北海道の生涯学習行政の今は、まさに惨状であり窮状であると表現できそうです。
 そして、このことは北海道だけの現象ではなくて、どうやら日本全国の生涯学習行政が「惨状」であり「窮状」であるようです(日本生涯教育学会「学会だより」.第91号.2004年10月28日.文教大学教育学部平沢茂教授の「第25回学会大会へのお誘い」から)。

 このような生涯学習を取り巻く情勢の中で、私学は誠に厳しい現状ではありますが、本研究所として、本学生涯学習システム学部として、また本学大学院生涯学習学研究科として、生涯学習分野でどのような地域貢献ができるのか考える必要があると思っています。まさに、全国で初めての生涯学習に関する学部を立ち上げた北海道浅井学園大学の地域貢献が期待されていると思われます。
 そのような中で、本叢書第6巻「学習社会の教育と学習」を出版することになりました。査読の結果、6名の研究所員に執筆してもらいました。大学が果たさなければならない地域貢献の小さな営みの一つになるものと考えています。読者諸賢のご指導、ご助言を賜りたく存じます。

 最後になりましたが、カバー装画は阿部典英所員に、扉絵は野崎嘉男所員にお願いしました。これは本叢書第1巻から続けて両所員にお願いしているところでもあり、第1巻から第6巻まで机上に並べてみると誠に美しく嬉しい限りでございます。本研究所の所員、研究員が持っている多彩で実践的な知の賜物であり、大切していかなければならないと考えております。両所員に心から感謝申し上げます。また、二瓶社の社長吉田三郎氏、同社編集部の駒木雅子氏に大変お世話になりました。深甚なる謝意を表します。

      2005年3月
     昨年は北海道に3個もの台風が上陸しました。野幌原生林の樹木も被害を受けました。
     残雪の中で新しい芽吹きが春を待ち望んでいます。そんな文京台にて。

         編著者 北海道浅井学園大学生涯学習研究所

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