カウンセリング テクニック入門

  
大谷 彰 著
カウンセリング技法を幅広く系統的に身につけるための入門書。これまで訓練やカリキュラムが標準化されていないこともあってこういった本は見あたらなかった。米国メリーランド大学で長年にわたってカウンセリングを教えてきた著者によって、ようやく本格的な専門カウンセラー養成のための本書ができあがった。
A5判・216ページ 定価1,764[本体1,680円+税]
ISBN 4-86108-011-8 C3011 \1680E
2004. 3. 10  第1版 第1刷

目 次

 緒言 高石 昇
 まえがき
第1章 カウンセリング技法を取りまく基礎概念
  カウンセリングの技法とは何か?
  カウンセリングの技法と効果の関係
  カウンセリング技法をとりまく諸条件
  まとめ
第2章 クライアントの観察技法
  クライアントの観察が重要な理由
  非言語要素とは何か
  まとめ
第3章 傾聴技法─聴き方の基礎技術
  傾聴技法とは何か
  明確化─あいまいな発言をはっきりさせる技法
  感情反映─感情に焦点を当てる技法
  言い換え─感情以外の事柄を意訳する技術
  要約─複雑な発言を整理する技法
  まとめ
第4章 活動技法─精緻な聴き取り技術
  活動技法とは何か
  探索─特定の情報・回答について尋ねる技法
  矛盾提示─言葉や態度の矛盾を指摘する技法
  解釈─行動の全体像や隠れたパターンを顕示させる技法
  情報提供─クライアントに有益な情報を提供する技法
  まとめ
第5章 傾聴・活動技法に類似するその他のカウンセリング技法
  リフレーミング──発言内容に新しい解釈・意味を与える技法
  語調反射─発言の語調や態度に焦点を合わせる技法
  自己開示─カウンセラー自身の反応を打ち明ける技法
  反復─クライアントの発言を繰り返す技法
  沈黙─クライアントの寡黙に接する技法
  まとめ
第6章 クライアントの問題を定義づける技法
  問題定義に関する語義について
  カウンセリング理論と問題定義の関連
  A-B-Cモデル:特定性と的確性による問題定義
  問題定義に役立つその他の探索事項
  まとめ
第7章 目標を設定する技法
  カウンセリング理論と目標設定
  目標設定の特長
  理想的な目標の特徴
  目標設定の技法
  まとめ
第8章 抵抗とその対応技法
  抵抗の理論的背景
  抵抗の分類
  抵抗を扱うカウンセリング技法
  まとめ
第9章 カウンセリング技法訓練の実際
  米国大学院での技法訓練の実際
  まとめ
第10章 カウンセリング理論による技法について
  カウンセラーの理論的立場と技法選択
  カウンセリング理論に基づく技法
  特定の障害の治療を目的とした技法
  まとめ
第11章 参考文献

まえがき 

 Counseling has come of age.日本語になおすと「カウンセリング時代の到来」という意味である。インターネットのGoogle サーチで試しに「カウンセリング」を入力してみたところ、何と376,000件の検索結果が見つかった(平成15年5月3日現在)。この数字を裏付けるかのように、街かどの書店にはカウンセリングの一角まで設けられ、入門書から高度な専門書までさまざまなカウンセリング書籍が山と積まれている。こうした現象は、単なるカウンセリングへの興味を示すのみならず、社会の急速な変化と複雑化の結果、専門カウンセラーの役割とその重要性が日本でもようやく認識された事実を反映したものと思われる。その証拠にカウンセリングの必要性と需要が高まるにつれ、産業カウンセラーや臨床心理士といったカウンセリングの資格もあいついで制定され、最近ではアメリカやカナダ、ニュージーランドでも認められている多国籍キャリア支援援助者(GCDF; Global Career Development Facilitator) などの国際的な資格も取得可能となった。本格的な専門カウンセラー養成制度が日本で確立されたのである。
 カウンセリングが日本社会に定着したことは喜ばしいことであるが、残念ながらカウンセラーの訓練やカリキュラムについては未だ標準化されていない。特に本書のテーマであるカウンセリングの技法に関しては、ごく初歩的ないくつかのテクニックや、特定の理論でもちいられる技術が紹介されているだけにとどまり、カウンセリングの技法を系統的に幅広く解説したテキストは見当たらないようである。殊にカウンセリング技法に影響を及ぼす条件や、さまざまな技術を理論的に位置付ける試みにいたっては、これまでのテキストではほとんど論じられることがなかった。この結果カウンセラーは、クライアントの問題や状況にかかわらず、少数の限られた基本技術を一辺倒に繰り返すか、自分の信奉するカウンセリング理論のテクニックをクライアントに押し付けることを強いられがちであった。これではクライアントの個性を尊重し、よく言われる「クライアント中心」のカウンセリング精神は無視されることになってしまう。
 本書は、現在米国の大学院レベルの専門カウンセラー養成プログラムで教えられているカウンセリングの基礎技法を解説したものである。米国でbasic helping skill(基礎援助技術)と呼ばれるこれらの技法はカウンセリングのみならず、医学や心理学、看護学、教育学、社会福祉などの分野でも基礎訓練の一環として取り入れられている。カウンセリングを専攻する学生たちはまずこの基礎の技術を修得し、さらに高度な技法へと進んでゆくのである。
 本書で紹介する技法はカウンセリングの発達過程にそって構成され、これに行動分析と認知行動理論とよばれるアプローチがさらに加えられたものである。これらの方法論の導入により、これまで困難とされていたカウンセリング技法の修得が合理的となった。本書ではカウンセリングの基本とされる13の技法について理論的な説明を下し、それらの一つひとつに複数の応用例を示した。特に傾聴技法と活動技法に関してはクライアントの同じ発言を繰り返して事例に引き、それぞれのテクニックの特徴やニュアンスの違いについて解題を試みた。またこれまで技法として取り上げられることのなかった沈黙や反復・語調反射といった技法、抵抗の判断と処理、クライアントの問題定義、目標設定などのカウセリング技術についても説明を加えた。1986年以来、筆者はこれらの技法を米国の大学院で教えてきたが、こうした訓練の方法も日本の読者にとっては興味深いトピックかもしれない。こう考えて、「カウンセリング技法訓練の実際」と題して本書に収めた。読者の参考になれば幸いである。
 本書の出版に当たり数多くの方々のお世話になった。特に、米国ではWilliam H. Cormier教授からカウセリング基礎技術の手ほどきと認知行動療法を、故Kay F. Thompson博士からはエリクソン流の臨床催眠を直接指導していただくという、願ってもいない幸運に恵まれた。日本では日本臨床催眠学会の高石昇博士から大きなご教示を頂いたのは光栄の限りである。読者が、本書をつうじて少しでもこれら碩学の知識と経験を味わうことができれば喜びである。また本書の出版を快諾してくださった二瓶社の吉田三郎社主にも感謝したい。最後に、本書を父の霊前と母に捧げる。
 米国でスタンダードとなった、本書で述べるカウンセリング基礎技法が日本でも広く採用されることを祈ってやまない。
   平成15年5月5日
米国メリーランド州、カレッジパークにて
大谷 彰


著者紹介
大谷 彰 おおたに あきら
 1955年(昭和30年)大阪生まれ。大阪明星高校在学中、AFS(American Field Serviceの略称で、高校生の交換留学を行なう財団法人)で米国オハイオ州に留学する。上智大学外国語学部英語学科を卒業後、米国西バージニア大学院にてカウンセリング心理学を学ぶ(教育学博士)。ジョンズ・ホプキンス大学助教授(1986〜1989)、メリーランド州の臨床心理士資格認定委員会副委員長を経て、現在メリーランド大学カウンセリングセンター主任サイコロジスト、京都ノートルダム女子大学客員教授。専門はカウンセリング技法、キャリア理論、および臨床催眠。現在、米国でカウンセリングの実践にたずさわりながら、日米で幅広く講義や研修を行なう。メールアドレスはaotani@umd.edu。


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