新しく学ぶ心理学

  
野村幸正 金敷大之 森田泰介 著
初学の人が心理学を学ぶ中で、自己を豊かに涵養していくことを目的にまとめられた入門書。
B6判・256ページ 定価1,554円(本体1,480円+税)
ISBN 4-4-86108-010-X C3011 \1480E

目 次

序 章

第1章 変化の把握
第1節 違いを見抜く
 1 感覚と知覚の基本的特徴
 2 経験による知覚の特徴
第2節 不変を見抜く
 1 知覚の恒常性
 2 動きのなかで知覚する
第3節 作り出される知覚
 1 解釈による知覚
 2 予期図式と未知の構想

第2章 処理様式の変化
第1節 処理のタイプ
 1 処理の進化
 2 入力直接依存─固定型処理
 3 入力直接依存─学習型処理
第2節 認知的処理
 1 期待と洞察
 2 認知構造
 3 認知的構造と選択

第3章 記憶の働き
第1節 記憶システム
 1 記憶とは何か
 2 短期記憶
 3 長期記憶
第2節 生きている記憶
 1 記憶の変容
 2 作り出される記憶
第3節 記憶の運用と伝達
 1 記憶と思考
 2 熟達者の問題解決を支える記憶
 3 技の伝達

第4章 心の深層─フロイト
第1節 精神症状と無意識
 1 フロイトの発想
 2 精神分析の誕生
第2節 発達と心の構造
 1 性衝動の顕れ
 2 心の構造
 3 自我防衛機制

第5章 深層の普遍性─ユング
第1節 無意識の多層性
 1 普遍的無意識の発見
 2 普遍的無意識の内容
第2節 自我とコンプレックス
 1 コンプレックスの発見
 2 自我とコンプレックスの関係
第3節 意識的態度
 1 意識の機能
 2 一般的態度
 3 意識の機能と一般的態度

第6章 文化─人間の特殊性
第1節 未決定を決定する文化
 1 関係としての文化
 2 文化とは
 3 可塑性と初期経験
第2節 世代を超えて伝承される文化情報
 1 いま・ここからの解放
 2 言語と思考
 3 道具と技能
第3節 道具使用の意味
 1 活動の基本構図
 2 文化増幅説

第7章 個の総和を超える集団
第1節 個の総和を超えた働きとしての集団
 1 集団とは何か
 2 集団の規範と凝集性
 3 集団が愚かになるとき
第2節 集団における個
 1 手抜きと補償
 2 集団間、内の差別

第8章 行動のタイプとしての性格
第1節 性格の理解
 1 性格とは何か
 2 性格の類型論
 3 性格の特性論
 4 性格の検査
第2節 性格の変化
 1 性格の形成
 2 性格の変化
 3 心理療法

第9章 適応の根源としての知能、そして智慧
第1節 知能と知能テスト
 1 知能とは
 2 知能テスト
 3 テストの信頼性と妥当性
 4 知能テストの意味
第2節 知能の発達と智慧
 1 研究法
 2 線でとらえた知能とg因子への疑問
 3 智慧

第10章 持続する適応としての生涯発達
第1節 遺伝と環境
 1 発達の背後にあるもの
 2 経験と成熟
第2節 発達の段階
 1 人生の前半
 2 中年の危機と自己実現
 3 人生の後半と終末

終章 生きること

参考文献
 

はじめに 
 心理学と銘打った本は数多くある。今また新たな一冊を加えることにどれほどの意味があるのか、正直いってその意味を見いだすことは難しい。ただ、それは心理学を学ぼうとするもの、またそれを教えようとするものにとっては、なくてはならない貴重な一冊となる。としても、それがどのような思想性のもとで、またどのような視点から書かれた一冊であるか、これが問題である。
 そして、この問題は大学で何を学び、また何を教授するのか、さらには教養科目、専門科目のあり方、双方の関係のあり方とも深くかかわってくる。大学では、この問題はことあるごとに話題にのぼるが、未だ明確な答えはない。だいいち、明確に答えをだせるようなものでもない。
 このようななか、かつて文部省が大学設置基準の大綱化を押し進めた際、多くの大学でこの問題に答えをだすべくさまざまな試みがなされたが、結果は教養軽視につながっただけではなかったか。しかし最近では、大学を取り巻く厳しい環境のなか、改めて大学の教育力が、人材の養成力が問われ、さまざまな改革が進行している。
 ところが、大学に求められている人材の養成にしても、それがどのような人材かに関しては不明確なままであり、教育に携わるものがみずから考え、またそれを具現してゆく他はない。一見すれば、極めて無責任のように思われるが、実はみずからが考え、それを具現してゆくことこそが教えるものに課せられた使命であり、また学ぶものに求められていると考えることができる。これが究極の人材養成につながる唯一の手だてではないか。
 心理学を学ぶことの意味もここにある。心理学そのものがその学びの媒体であるともいえる。心理学はみずからのあり方を、時には観察を介して、時には内省を介してとらえてゆく学である。それらを介して得られた知の体系が心理学であるとすると、心理学を学ぶことは自己のあり方を知ることでもある。
 本書は、学生諸君が心理学の知見を学ぶなかで自己知を獲得し、自己を豊かに涵養してゆくことを願って編集されたものである。またセミスター制への移行を踏まえている。九〇年代はじめに上梓した拙著『生きるもの・生きること』(福村出版)を参考にしながら、金敷大之および森田泰介両氏の協力を得て根本的に書き改めた。著者間で一応の執筆分担を決めたが、互いの検討作業で大幅に修正を繰り返したこともあり、あえて担当を明記しないことにした。最終的な責任は野村にあることはいうまでもない。
 なお、両氏は関西大学文学研究科で心理学を専攻した新進気鋭の研究者である。現在はともに日本学術振興会特別研究員であり、関西大学で非常勤講師として心理学を担当している。本書の内容には著者らの講義を通した経験が色濃く反映されていると確信している。
 最後に、本書を上梓するにあたって二瓶社の吉田三郎氏にお世話になった。ここに記して深く感謝する。

       平成一五年一〇月       白秋の千里山にて  野村幸正



[著者紹介]
野村幸正 のむら ゆきまさ
1947年生まれ 関西学院大学文学部卒業 同大学院修了 現在関西大学文学部教授
認知心理学専攻 文学博士 1987〜1988、インドのプーナ大学へ留学
著書
 『現代基礎心理学 4 記憶』東京大学出版会(分担執筆、1982)
 『心的活動と記憶』関西大学出版部(1983)
 『漢字情報処理の心理学』教育出版(海保と共著、1983)
 『サバイバル・サイコロジー』福村出版(井上と共著、1985)
 『知の体得──認知科学への提言』福村出版(1989)
 『関係の認識──インドに心理学を求めて』ナカニシヤ出版(1991)
 『認知科学ハンドブック』共立出版(分担執筆、1992)
 『生きるもの・生きること──新・心理学試論』福村出版(1992)
 『かかわりのコスモロジー──認知と臨床とのあいだ』関西大学出版部(1994)
 『臨床認知科学──個人的知識を超えて』関西大学出版部(1999)
 『行為の心理学──認識の理論−行為の理論』関西大学出版部(2002)
                                他論文多数

金敷大之 かなしき ひろゆき
1971年生まれ。
日本学術振興会特別研究員(関西大学文学部)
認知心理学専攻。


森田泰介
 もりた たいすけ
1973年生まれ。
日本学術振興会特別研究員(関西大学文学部)
認知心理学専攻。

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