フランシーン・シャピロ 著 市井 雅哉 監訳 心的外傷(PTSD)の治療法として注目されている「眼球運動による脱感作と再処理法」(EMDR)を使うためのテキスト。ワークショップなどの説明を補うために書かれたもので、EMDRの技法の発見から、原理・手順・手続きを細部にわたり説明している。付録にチェックリストや評価用紙も完備し、技法全体を知ることができる。 A5判・592ページ 定価7,140[本体6,800円+税] ISBN 4-86108-008-8 C3011 \6800E 2004. 6. 10 第1版 第1刷 |
目 次
日本語版への序文 iii
序 文 v
1章 背 景 1
偶然の発見 8
最初の統制群を用いた研究 9
さらに進んだ臨床および実験からの知見 12
パラダイムの変化 15
適応的な情報処理 18
理論的収束 22
外傷後ストレス障害 23
精神力動的アプローチ 23
行動療法的アプローチ 24
認知‐行動的アプローチ 27
統合的アプローチ 30
要約と結論 31
2章 適応的な情報処理──作業仮説としてのモデル── 33
情報処理 34
代替刺激 37
記憶のネットワーク 38
EMDRのサンプルセッション 39
サンプルセッションの部分的な逐語録 40
サンプルセッションの評価 45
機能不全から機能へ 46
異なる神経ネットワーク 47
EMDRの他の障害への適用 48
静止状態の経験:感情と信念の陳述 49
解 決 52
子ども時代での凍結 53
「時間のかからない」心理療法 55
ターゲット 57
否定的な材料に限定したアクセス 58
記憶の欠如 59
解 離 59
統合された心理療法 60
要約と結論 63
3章 EMDR治療の要素と基本的な治療効果 65
EMDR手続きの基本要素 65
イメージ 66
否定的認知 66
肯定的認知 70
感情と障害レベル 74
身体感覚 75
情報処理システムの活性化 75
眼球運動 75
その他の刺激形態 79
EMDR治療の8段階 80
第1段階:生育歴・病歴聴取と治療計画の設定 81
第2段階:準備 82
第3段階:評価 83
第4段階:脱感作 84
第5段階:植え付け 84
第6段階:ボディスキャン 86
第7段階:終了 87
第8段階:再評価 88
標準的な三つ股熊手のEMDRのプロトコル 88
ターゲットの選択 89
反応パターン 91
いくつかの記憶を関連させて処理する 93
単一記憶を処理する効果 96
治療効果の分かれめ 103
スーパービジョンを受けての実習 104
要約と結論 104
4章 第1段階──クライエントの生育歴・病歴の聴取── 107
クライエントの準備性 108
クライエントの安全性の要因 109
ラポートのレベル 110
感情の動揺 110
安定性 111
生活の支援 112
一般的な身体的健康 112
外来治療 対 入院治療 113
神経学的障害 113
てんかん 114
目の問題 114
薬物、アルコール乱用 115
法的な必要性 116
システムのコントロール 117
二次的疾病利得 117
タイミング 119
薬物療法の必要性 120
解離性障害 121
治療計画 123
生育歴・病歴聴取逐語録 127
スーパービジョンを受けながらの実習 140
要約と結論 140
5章 第2、3段階──準備と評価── 143
第2段階:準備 143
臨床的姿勢の選択 144
クライエントとの絆の構築 144
理論の説明 145
眼球運動のテスト 146
安全な場所の創造 147
モデルの説明 150
期待の設定 153
クライエントの恐怖を扱うこと 155
第3段階:評価 157
映像の選択 158
否定的認知の同定 159
肯定的認知の開発 162
認知の妥当性(VOC)の評価 164
感情の言語化 165
主観的障害単位の評価 165
身体感覚の同定 166
要素の重要性 167
スーパービジョンを受けての実習 169
要約と結論 169
6章 第4〜7段階──脱感作、植え付け、ボディスキャン、終了── 173
記憶の加速処理 174
第4段階:脱感作 180
関連した処理 182
評 価 190
第5段階:植え付け 192
第6段階:ボディスキャン 195
第7段階:終了 196
イメージ誘導 197
安全性の評価 197
デブリーフィングと日誌 198
スーパービジョンを受けての実習 202
要約と結論 203
7章 除反応とブロックへの対処 205
除反応 206
除反応の対処のガイドライン 208
除反応の技法 216
ブロックされている処理への方策 217
主要ターゲット 217
補助的ターゲット 226
スーパービジョンを受けての実習 238
要約と結論 238
8章 第8段階──再評価と標準的なEMDRプロトコルの使用── 241
第8段階:再評価 243
標準的EMDRプロトコル 243
過去に関する作業 243
現在に関する作業 249
未来に関する作業 252
治療の終結 257
フォローアップ 257
治療の終結 259
スーパービジョンを受けての実践 261
要約と結論 262
9章 特殊な状況に対するプロトコルと手続き 265
11ステップの標準手続き 266
単一の外傷的出来事のプロトコル 267
現在の不安と行動のプロトコル 268
最近の外傷的出来事のプロトコル 269
恐怖症のプロトコル 272
単一恐怖 273
過程恐怖 273
過剰な悲嘆のプロトコル 277
疾病と身体的障害のプロトコル 280
眼球運動をストレス低減のために自分で使う方法 288
警告と提案 288
技術的考察 289
セルフコントロールと終了の手続き 290
安全な場所のイメージ 291
視覚化をテープ録音 291
光の流れの技法 292
垂直の眼球運動 293
デブリーフィングと安全性の評価 294
要約と結論 294
10章 認知の編みこみ──難しいクライエントに対処するときの積極的戦略── 297
編みこみの基礎 300
責任、安全、そして選択 301
介入をクライエントに合わせる 312
編みこみの選択 313
新しい情報 314
「私は混乱しています」 315
「もし、それがあなたのお子さんだったらどうしますか?」 315
比喩・類推 316
「振りをしましょう」 317
ソクラテス的方法 318
同 化 319
言語化 320
教 育 327
スーパービジョンを受けての実習 329
要約と結論 329
11章 さまざまな対象 331
ノンコンプライアンスの問題 332
子ども 337
感情の具体的な定義 339
目で追うこと 339
子どもの注意を保つこと 340
肯定的認知 340
子どもの認知の利用 341
治療効果の般化 341
創作的な治療 342
カップル 343
配偶者の幼児期の性的虐待 343
同席セッションと個人セッション 344
不 倫 346
性的虐待の被害者の治療 347
適切な治療目標 348
クライエントの準備性 349
安全性と安定性 349
構 造 350
統 合 351
情報の山場 353
感情の段階 353
偽りの記憶 356
記憶を扱う治療に関する注意点 356
戦闘帰還兵 361
自己卑下感を扱うこと 361
コントロールの喪失感を扱うこと 362
二次的疾病利得の問題 363
自己所属感と忘れることへの恐れ 364
否認と移行状態をどのように扱うか 365
怒りを扱うこと 366
認知の編みこみを利用すること 368
高齢帰還兵の治療 369
女子帰還兵の治療 369
解離性障害 370
全体的評価 373
要約と結論 375
12章 理論、研究および、臨床的意味 379
理論的説明 379
手続きの要素 381
中断ありのイクスポージャー 382
統制感 384
身体感覚への注意 385
認知的リフレーミング 385
記憶の要素に沿うこと 386
自由連想 386
マインドフルネス 387
眼球運動と他の二重注意刺激 388
定位反応 389
気そらし 391
催 眠 391
細胞レベル、脳レベルの変化 392
夢見の睡眠 399
リラクセーション反応 400
皮質の同調化 401
皮質の機能 403
統合的効果 405
統制群を用いた研究 406
PTSDの治療研究の全般的不足 406
提唱されたEMDR研究基準 407
方法の妥当性 408
心理学的測度の選択 409
参加者選択 411
比較研究 411
成分分析 412
PTSD治療でのEMDRの統制群を用いた臨床効果の研究 413
市民を対象にした研究 415
戦闘帰還兵の研究 419
EMDRの効果研究における方法論的問題 421
EMDRと他のPTSD治療の比較 425
臨床効果の比較研究のために提案された基準 428
多様な臨床適用 430
活動的な要因の重みづけ 434
要因分析 435
臨床効果の要因分析研究における要因分析のための変数の提案 435
現存の臨床的要因分析の展望 439
シングルサブジェクトデザインの使用 441
テスト可能な仮説を見極める 442
さまざまな現在の仮説のテスト 444
要因分析研究への推奨のまとめ 447
より広い臨床上の意味、専門的意味 449
研究と展望の不十分な基準 449
臨床上の責任 452
全般的な責任 455
要約と結論 458
付録A 臨床の補助道具 461
付録B クライエントの安全 478
付録C EMDRの資源 491
付録D 様々な臨床上の適用評価 495
付録E EMDRの臨床家調査 501
References 515
索引 551
監訳者あとがき 565
訳者紹介 567
日本語版への序文
眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)を使うためのテキストの翻訳が出版されることを大変嬉しく思っています。1995年に第1回環太平洋ブリーフサイコセラピー会議のゲストスピーカーとして日本を訪れてから、全ての日本の臨床家と研究者たちがEMDRの原理と手続きを利用できるようになる日を楽しみにしてきました。九州会議における討論参加者の方々とのやりとりは、その機制を検討しようとする、同志の意識や知的な熱意の両方が感じられ、満足のいくものでした。その時以来出会った日本の臨床家たちのことを考えると、その明晰さと焦点の的確さを併せ持っていると感じ、さらには実用性と新しいアイデアへの開放性に感動させられ続けています。臨床のトレーニングにこのテキストを携帯することで、その作用がずっとわかりやすくなることを嬉しく思います。
EMDRは現在およそ70カ国で臨床病理の治療に使われています。EMDR-Network, JapanのようなEMDRを普及するための組織が、その方法論の標準化されたトレーニングの普及に努めています。その実践家の多くが、しばしば奉仕の形で、各地域で、そして世界的に苦しみの軽減に専心しています。個人的に、そして集団で、EMDR-HAP(人道支援プログラム)とよばれる国際的な組織を通じて、人災・天災の両方の被害者が世界中で臨床家たちによって助けられています。実践家達がトラウマの治療におけるEMDRの急速な効果を観察したことにより、この組織が成立しました。こうした可能性があるので、日本における最初のEMDR適用のひとつが数年前の阪神大震災の被災者に対してであったことは驚くべきことではありません。この目的に初めてEMDRを用いた、この本の監訳者である市井雅哉氏に心より感謝します。また、彼の努力を通じて、日本全国の臨床家や研究者が実践の援助を受けるでしょう。新しい洞察や臨床的革新が、この共同作業によって可能になることを楽しみにしています。
Francine Shapiro, Ph.D.
監訳者あとがき
本書はFrancine Shapiro著の”Eye Movement
Desensitization and Reprocessing: Basic Principles,
Protocols and Procedures”の第1版(1995)と第2版(2001)のコンビネーションの日本語訳である。翻訳としては、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、セルビア語、スペイン語、ロシア語に次ぐ7番目の言語ということで、いかに重要な書であるかが伺い知れる。この日本語版は第1章、第12章、付録は第2版から、他の第2章から第11章までは第1版からという構成になっている。本書の翻訳作業は1996年に始まり、第1版の各章の訳出をしていただいた先生方には早くに原稿をいただきながら、訳語の統一、文体の統一等を図っているうちに、時間が経ち、アメリカで第2版が出版されて刊行の機を逸してしまった。原著者のShapiro博士からどうしても第1章と第12章は新しい第2版のものにして欲しいと依頼されて、一度入稿した原稿にストップをかけることとなった。第1章は導入的な章であり、第12章は研究や理論について述べた章である。第1版から第2版までの間にEMDRは研究や理論化について多くの進歩を遂げた。さまざまな批判を受け、新しい研究がそれに応えるという形で格段の前進があった。外部からの評価も、1998年にAPA(アメリカ心理学会)、1999年にはISTSS(国際トラウマティックストレス学会)、2001年United
Kingdom Department of Health、2002年イスラエル政府と相次いでEMDRをPTSDに対する妥当性のある治療法として認めるという動きがあった。日本においてもこの間に毎年行なわれてきたEMDRトレーニングの修了者は500名を越え、修了者の組織であるEMDR-Network,
Japan (www.emdr.jp)は継続研修やニューズレター、地方の勉強会、クライエントの紹介などEMDRの質の高い臨床、研究の発展のために努めてきた。種まきの時期から、たわわな実りの時期に来ている気がする。日本で育ってきている臨床家を後押しするために付録も第2版のものに改めた。これは臨床家の直接的なツールとなるようなものが多く含まれており、多くのクライエントの救いとなるだろう。
こうして何と7年もの歳月がかかってしまった本書の翻訳作業が終わりを迎えようとしており、感慨もひとしおである。本当に多くの方の助けを借りて今ようやく世に出ようとしている。各章の訳者の方々はEMDRの普及に努めてきたファシリテーターの太田茂行さん、北村雅子さん、田中 究さんを初め、各地でEMDRや心理療法、精神医学に専心する実力ある先生方で、大変心強かった。琉球大学大学院修士の吉川陽子さん、中村亜由美さん、森田桂さん、田仲織江さん、安里優子さん、北海道医療大学大学院の本間美紀さん、学部生の山城小志麻さん、他にもゼミや心理学教室のみなさんにはさまざまな支援を頂いた。記して感謝したい。そして、最後にこうした紆余曲折にもかかわらず、終始暖かく見守って、本書の実現のために本当にご尽力いただいた二瓶社の吉田三郎氏に深く深く感謝したい。
2003年10月23日 秋の訪れを感じる南の島にて
市井雅哉
訳者紹介
監訳者
市井雅哉
1961年 滋賀県生まれ
1992-93年 アメリカ、テンプル大学大学院留学(ロータリー財団奨学生)
1994年 早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程心理学専攻単位取得退学
1994年 早稲田大学人間科学部助手
現在 琉球大学教育学部助教授
EMDR Instituteファシリテーター
EMDRIA認定コンサルタント、インストラクター
EMDR-Network, Japan理事長
主要著訳書:「子どものトラウマと心のケア」(共著)誠信書房、「認知行動療法の理論と実際」(共著)培風館、「認知行動療法─臨床と研究の発展」(共訳)金子書房、「認知療法ケースブック」(共著)星和書店、「認知行動療法」(共訳)同朋舎、「ストレス対処法」(監訳)講談社、「子どものストレス対処法」(監訳)岩崎学術出版社、
各章の訳者
第1章 久保田康愛(大村病院 精神科医、専門:精神療法)
第2章 岡ア順子(済生会中津病院)
第3章 岩井圭司(兵庫教育大学)
第4章 有村達之(九州大学大学院医学研究院 助手、専門:認知行動療法)
第5章 田中ひな子(原宿カウンセリングセンター カウンセラー、専門:摂食障害、PTSD、嗜癖、解決志向アプローチ)
第6章 細澤 仁(兵庫教育大学講師 精神科医、専門:精神分析,精神医学)
第7章 太田茂行(生活心理相談室ナヌーク 所長 EMDR
Instituteファシリテーター)
第8章 長田 清(長田クリニック 院長、専門:ブリーフセラピー)
第9章 高崎吉徳(高崎クリニック 院長 故人)
第10章 北村雅子(筑波記念病院、川越心理研究相談室 臨床心理士 EMDR
Instituteファシリテーター、専門:トラウマ、催眠)
第11章 田中 究(神戸大学大学精神神経科助手 EMDR
Instituteファシリテーター、専門:精神病理学、児童青年期精神医学、外傷性精神医学)
第12章 市井雅哉(監訳者)
付 録 胡桃沢 伸 (阪本病院 精神科医、専門:統合失調症、精神療法)
細澤 仁(前掲)