子どもの発達の行動分析 新訂訳

  
シドニー・W・ビジュー 著
園山繁樹 根ヶ山俊介 山口 薫 訳
A5判・200ページ 定価2,310円(本体2,200円+税)
ISBN 4-86108-007-X C3011 \2200E
2003. 10. 10 第1版 第1刷

 子どもの心理的発達について、科学的・体系的分析を加えながら、行動分析の考え方をわかりやすく述べる。行動論的な心理学や教育方法を学ぶ学生や臨床の実践家が基礎を再学習しようとするときに必読の書。
 本書は、「子どもの発達と行動分析」のタイトルで、1996年に小社から刊行されたものであるが、山口薫先生に新しく参加していただき、翻訳に訂正・検討を再度加えて、新訂訳版として新しく刊行する。



目 次

日本語版への序
新訂訳にあたって


第1章 序 論
 理 論
 心理的発達
 自然科学
 文 献

第2章 発達理論のコンテクスト
 現代行動心理学の特徴
   基礎行動心理学と応用行動心理学
 行動心理学,動物生理学,文化人類学の相互依存関係
   心理学と動物生理学
   心理学と文化人類学
 要 約
 文 献

第3章 子ども,環境,およびその連続的相補的相互作用
 子ども
   心理的行動の有機体としての子ども
   環境刺激の源としての子ども
 環境
   特定の刺激事象
   状況要因
 子どもと環境の連続的相補的相互作用
   遺伝と環境
 発達段階
   基盤的段階
   基礎的段階
   社会的段階
 要 約
 文 献
第4章 レスポンデント相互作用:特定の先行刺激に敏感な行動
 馴化と増感作用
 新しい刺激機能の発達:中性刺激と無条件刺激の対呈示
 条件反応の除去
 レスポンデント相互作用の般化
 レスポンデント相互作用の弁別
 文 献
第5章 オペラント相互作用:特定の結果に敏感な行動
 オペラント相互作用における刺激の機能分類
 オペラント相互作用の増化と弱化
   オペラント随伴性
 中性刺激結果によるオペラント相互作用の弱化:消去
 行動のシェイピング
 文 献
第6章 オペラント相互作用の獲得
 オペラント行動と結果刺激の時間間隔
   オペラントと強化子の因果関係についての疑問
 コンタクト数とオペラント行動の強さ
 文 献
第7章 オペラント相互作用の維持
 連続強化
 間欠強化
   反応数を基準にした強化スケジュール
   経過時間を基準にした強化スケジュール
 要 約
 文 献
第8章 弁別と般化
 弁 別
   モデリング
   概念形成
 般 化
   般化を促進する技法
 文 献
第9章 一次性強化子,二次性強化子,般性強化子
 獲得性強化子
 一次性強化子
 般性強化子
 獲得性強化機能をもつ刺激と獲得性誘発機能をもつ刺激の違い
 オペラント相互作用の要約
 文 献
第10章 言語行動と言語相互作用
 はじめに
   言語の諸側面と言語的行動
   言語行動の定義と意味
   言語行動のユニット
 パートT:話し手を中心にした場合
 一次的言語行動のクラス
   状況要因の機能としての一次的言語行動
   先行言語刺激の機能としての一次的言語行動
   非言語刺激の機能としての一次的言語行動
   非顕現刺激の機能としての一次的言語行動
   聴取者の機能としての一次的言語行動
 一次的言語行動の操作と補完
   関係的オートクリティック
   記述的オートクリティック
 パートU:聞き手を中心にした場合
   条件性の情動反応を引き起こす条件刺激としての言語行動
   聞き手を教育する弁別刺激や強化刺激としての言語行動
   聞き手に情報を提供する教示としての言語行動
   ルール服従行動の弁別刺激としての言語行動
 文 献
第11章 複雑な相互作用:葛藤,意思決定,情動行動
 葛藤:相反する刺激機能と反応機能
   非連続的葛藤
   連続的葛藤
 意思決定
   葛藤と意思決定
   決定行動
 情動行動
   世間一般の概念
   ジェームズ-ランゲ説
   もう一つの公式化
 文 献
第12章 複雑な相互作用:自己管理,思考,問題解決,創造性
 自己管理
  「良心」の発達
   自己管理の意味
   バイオフィードバック
 思考と問題解決
   思考行動
   問題解決
 創造性
   創造性の概念
   子どもの創造的行動
 文 献
第13章 要 約
 文 献

 訳者あとがき

日本語版への序


新訂訳にあたって
 「子どもの発達と行動分析」の新訂訳版出版にあたり、新しく訳者の一員に加わったご挨拶とともに、改訳版出版に至るまでの経過を述べさていただきたいと存じます。
 ご承知のようにこの本は、最初シドニー・ビジュー先生とドナルド・ベアー先生共著で、子どもの発達に関する一連の図書の最初の巻として"CHILD DEVELOPMENT T A Systematic empirical Theory"と題して1961年に出版されました。
 この本は、私と当時国立特殊教育総合研究所にいた東正で翻訳し、1972年に「子どもの発達におけるオペラント行動」という書名で日本文化科学社から出版しました。1967年から68年にかけてフルブライト研究員として直接ビジュー先生の薫陶を受けた私と、私の紹介でその翌年、文部省の在外研究員として1年間同じく先生の指導を受けた東としては、わが国の研究者、教育実践家に、行動分析学の観点からの子どもの発達についての知見を広める上に、一定の貢献が出来たことを誇りに思っております。当時、わが国のこの分野の研究はまだほとんど未開拓でした。
 この本はその後改訂され、書名も"Behavior Analysis of Child Development"と変えて1978年に出版されました。この本の日本語版の準備に取りかかったのですが、東が大分大学教授に就任したこともあって──その後、病に倒れ残念ながら亡くなりましたが──ぐずぐずしている間に、再び改訂版が、今度はビジュー先生の単著として1993年に出版されました。この1993年版が園山・根ヶ山両氏によって翻訳され、1996年に二瓶社から「子どもの発達と行動分析」という書名で出版されました。これは、最初の「子どもの発達におけるオペラント行動」が廃刊になった後、この分野の最も優れた図書として高い評価を受けて今日に至っています。
 私も大学や研究会などでこの本をテキストに使ってきましたが最初一年間程、ある県の保健師さんたちとのこの本の勉強会で、質問が出ても私にもよく意味が読みとれないところがありました。原文を照会するといくつか誤訳が出てきました。そこで思い立って、全文を逐語的に検討してみると不備がさらにいくつか見つかりました。そこで、この本を少しでも正確なものにすることが、ビジュー先生の教えに報いることであるという思いから、失礼を顧みず二瓶社の吉田三郎氏を通じて訳者に提言したところ、両氏とも快く改訳を承諾してくださり、私を訳者の一員に加えてくださることになったものです。
 改訳にあたり、明らかに誤訳と思われる箇所はもちろん訂正しました。その誤訳の中にはあるいは元の私と東の訳に端を発するものもあるかと思います。
 誤訳とは言えないかもしれないが、意味が不明確であったり、訳が生硬な箇所についても指摘しましたが、これらもおおむね私の意見を受け入れていただきました。
 専門用語については、私の意見を受け入れてもらったところと受け入れていただけなかったところがありました。意見の違う箇所は、原訳者に従い、私は私なりに今後勉強していきたいと思っています。
 なお、書名も原著に忠実に「子どもの発達の行動分析」にすることを提案し、受け入れていただき感謝しています。
 このような経過で、この新訂訳版が装いを新たに出版されました。原著者のビジュー先生は今年秋に95歳になられます。お元気でサンタ・バーバラのご令嬢の下に身を寄せておられますが、一日も早く先生にこの新訂訳をお届けできることを願っております。

2003年8月
山口 薫

訳者あとがき
 本書の原著は Bijou, S.W.によって著され,米国ネバダ州の Context Press から1993年に出版された Behavior Analysis of Child Development である。原著者の序にも記されているように,初版は1961年にBear, D. M.との共著で出版され,1978年に一度改訂されている。ビジュー博士は長年にわたって米国の行動分析の指導的立場にあり,現在はネバダ大学の心理学部教授である。博士はたびたび来日され,わが国の行動分析や障害のある児童の指導の領域に大きな影響を与えておられる。
 初版はわが国でも1972年に山口薫先生と東正先生の共訳によって出版されている(『子どもの発達におけるオペラント行動』日本文化科学社)。行動分析について日本語の書籍がほとんどなかった当時,初版の翻訳は研究者や実践家に大きなインパクトを与えるものであった。
 本書の特徴として二つのことが指摘できる。一つは,スキナーの行動分析の基本的枠組みである三項随伴性に状況要因を加え,四項随伴性に基づいて行動を分析している点である。この状況要因はカンターの相互行動心理学の基本概念であり,ビジュー博士はこの要因を行動分析の重要な要因として初めて導入された。もう一つは,分析する対象は単一の行動というよりも,人と環境の相互作用であることを強調している点である。これは行動と環境は不可分の関係にあることを意味し,分析に際しても反応と刺激のセット,すなわち反応機能と刺激機能がひとまとまりとして分析されることになる。この視点が強調されていることにも,カンターの相互行動主義の影響が強く認められる。
 また,本書では子どもの心理的発達の分析を中心にすえながら,行動分析の考え方がわかりやすく述べられている。したがって,大学の学部や大学院で行動論的な心理学や教育方法を学ぶ学生にはとても刺激的な教科書となる。また,臨床場面で行動論的な立場から仕事をしている実践家にとっても,基礎を再学習するうえできわめて示唆に富んだ参考書である。本書が行動論的な研究と実践の発展に貢献できることを心より願っている。
 訳者二人も今回の翻訳には特別な思いをもって取り組んだ。園山は学部二年生のときに初版の訳書に出会い,それをきっかけに行動論的立場を自らの仕事の方向性と定めるに至った。いわば,運命の出会いの一冊であった。根ヶ山は障害のある幼児に対するポーテージプログラムを通してビジュー博士と直接出会い,以後もご指導をいただいている。そして,根ヶ山らがかつてポーテージプログラムの研修のために博士を北九州市にお迎えし,西南女学院のマロリーホールでご講演をお願いしてから今年はちょうど10年目に当たる。このような関係から,博士には本書のための序文を快くお引き受けいただいた。感謝申し上げる次第である。
 訳出に当たっては,第1章から第7章までを根ヶ山,序と第8章以降を園山がそれぞれ分担して訳した後,お互いの原稿を数回交換して訳語と文体の統一を図った。読者にはまだまだ不十分な表現が散見されるかもしれないが,どうぞご指摘をお願いしたい。
 最後に,二瓶社の吉田三郎代表には専門書である本書の出版を快くお引き受けいただいたことを感謝申し上げる。

   1996年2月
シオンの丘にて


訳者紹介
園山繁樹 そのやま しげき
1956年生まれ
筑波大学大学院心身障害学研究科単位取得退学
中国短期大学,西南女学院大学を経て
現在、筑波大学心身障害学系助教授
博士(教育学),専門行動療法士,臨床心理士

根ヶ山俊介 ねがやま しゅんすけ
1937年生まれ
福岡学芸大学卒業
北九州市児童相談所長等を経て
現在,西南女学院大学保健福祉学部福祉学科教授

山口 薫 やまぐち かおる
1924年生まれ
東京大学文学部心理学科卒業,同大学院修了
東京学芸大学教授,明治学院大学教授を経て
現在、東京学芸大学名誉教授

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