独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター情動行動障害センター 編 大隈紘子・伊藤啓介 監修 最善の治療者として親を位置づけ、AD/HD児の問題を改善する方法を示します。発達障害の子どものと違い、身辺自立の問題は少ないのですが、毎日の生活の中でしばしば問題を起こしています。親子関係が険悪になってしまい、虐待に陥る危険性もあります。 B5判・192ページ 定価2,730[本体2,600円+税] ISBN 4-86108-004-5 C3011 \2600E 2005. 5. 15 第1版 第1刷 |
目 次
まえがき iii
序章 肥前方式AD/HD 児の親訓練プログラム
1.親訓練(ペアレントトレーニング)の意義
2.親訓練の歴史と拡がり
3.AD/HD児への親訓練はなぜ必要か
4.発達障害児に対する肥前方式親訓練プログラムの開発と効果
5.肥前方式親訓練プログラムによるAD/HD 児への効果
6.AD/HD児のためのHPST プログラムの構成と効果
第1章 セッション1:AD/HD 児の学習室の基本的な考え方
1.はじめに
2.AD/HD(注意欠陥/多動性障害)を正しく知っていますか?
3.AD/HDの図書の紹介
4.お母さんが家で困っている子どもさんの問題は何でしょうか?
5.この学習室の要点
6.この学習室とお薬の併用
7.この学習室のキーワード
第2章 セッション2:治療例の紹介
1.はじめに
2.自分の子どもを知る
3.目標を決める
4.子どもの行動に取り組む際のポイント
5.事例の紹介
第3章 セッション3:観察と記録
1.はじめに
2.目標行動の設定の仕方
3.目標行動の分類
4.記録の仕方
5.最後に
第4章 セッション4:強 化
1.強化とは
2.強化子の種類
3.強化子を用いる際の留意点──強化子の力を最大限利用するための秘訣
4.強化スケジュール
5.さまざまな強化の仕方
第5章 セッション5:ポイントシステム
1.はじめに
2.トークンシステム
3.レスポンスコスト
4.トークンシステム適用のコツ
第6章 セッション6:環境の整え方
1.はじめに
2.子どもの行動、特徴をよく理解すること
3.環境調整
4.スケジュール
5.約束表
6.課題の工夫
第7章 セッション7:消去・タイムアウト
1.はじめに
2.困った行動はどのように維持、強化されているのか:行動観察
3.消去という考え方
4.困った行動を減らすための具体的方法:計画的無視で消去する
5.困った行動を減らすための具体的方法いろいろ
6.それでも困った行動が減らないときの方法:タイムアウト
7.最後に──悩んだ時のチェックリスト
第8章 セッション8:外出先での工夫・対処法
1.はじめに
2.外出先でどんな経験をしましたか?
3.外出先での工夫をはじめる前に
4.前もって対応を考える、計画を立てる
5.子どもに復唱(リハーサル)させる
6.外出先でのタイムアウト法
7.おわりに
第9章 食事と宿題がスムーズにやれるようになったA君の例
第10章 歯磨きと服のカゴ入れができるようになったB君の例
1.対象児
2.訓練経過
第11章 家庭での行動から、学校での行動に改善がみられたC君の例
1.対象児
2.訓練経過
資料編
著者紹介
まえがき
平成16年に「発達障害法」が成立し、遅れていた発達障害(注意欠陥/ 多動性障害〔AD/HD〕もその中に含まれるのですが) への、法に基づく取り組みがスタートすることになりました。わが国ではこの頃から、AD/HDが社会的な注目を浴びるようになりました。この障害をもつ小学生の学校での様子や、担任教師や学校当局の取り組みがテレビ番組で取り上げられ、親の体験を書いた本、専門家の本、治療指針(ガイドライン)などが次々と出版されるようになりました。 ところで、「親訓練」とは、さまざまな障害をもつ子どもの親に、行動療法の理論を系統的に講義し、さらに実習してもらうことによって、自分の子どもの困った行動に対処できるようになってもらうものです。親訓練は1960年代にアメリカを中心に始まりました。その後、さまざまな介入が試みられ、評価がおこなわれ発展してきました。現在では、方法論をもつ確立した治療法の一つとして認められるようになり、子どものいろいろな問題を治療する際の基本的な方略として定着してきています。 ところで私たちは、平成10年に精神遅滞や自閉症などの発達障害をもつ子どもの親を対象にした実践的な本、『お母さんの学習室── 発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム』( 二瓶社) を出版しました。この本はわが国で最初に出版された親訓練の本であると思っています。ここで紹介した方法がHPST(Hizen Par-enting Skills Training; 肥前方式親訓練) として、その後実践する治療者が各地で拡がっていることをうれしく思っています。数年前には第3刷を出すことができました。 この『お母さんの学習室──発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム』の出版を終えた後、平成11年の春から、私たちはAD/HD の子どもの親訓練の開発に着手しました。AD/HDの子どもの親が困っていることは、発達障害の子どもの親が困っていることと多少の違いがありました。AD/HDの子どもでは、身辺自立の問題は少ないのです。ところが、朝の登校準備が間に合わない、食事中に頻回に食卓を離れる、宿題がなかなか終わらない、見過ごせないきょうだいげんかを繰り返すなど、毎日の家庭生活の中で困った問題が多くあることがわかりました。また、保育園や幼稚園、学校などでも保育士や教師、あるいは友達との関係でしばしば問題を起こしていることも親の悩みであることがわかりました。親は自分の子どもに言うことをきかせられないことで、自分の養育の仕方やしつけに自信をもてずに、抑うつに陥ってしまっていることも少なからずありました。あるいは、子どもに言うことをきかせようと強い態度でしつけをおこなうと、親子ともにイライラして、結果として、親子関係が険悪になってしまい、場合によっては虐待に陥ってしまう危険があることがわかりました。AD/HDの子どもは普通の子どもの数倍、虐待を受けやすい、虐待のハイリスク児であると言われていることが、私たちも実感できました。 私たちは、発達障害児の親訓練プログラムの開発の経験をもとに、AD/HD の子どもの親訓練プログラムを開発しました。そのプログラムではまず、AD/HDの正しい理解を親ができるように工夫や改善を重ねました。この子どもたちの親がしばしば陥る誤解を解いてもらうようにプログラムの講義を工夫しました。また、親が強く怒ったりしなくても、子ども自身が自分のことをできるように、プログラムを系統的に組み立てました。その一部を紹介すると、親は子どもの周りの環境調整の手助けをおこないながら、子どもの成功体験をつくり、その成功体験を褒め、子どもがポイントを獲得できるようにします。また、子どもたちの問題行動が多い公共の場所(家族での外出や外食、地域での子ども行事への参加など)、あるいは親類の行事などに、子どもを連れて行くときの工夫の仕方も講義し、子ども時代の社会経験をこの子どもたちも無事に、楽しく、経験させるためのポイントなどを講義の中に入れました。 この本では、私たちの「AD/HDをもつ子どものお母さんの学習室」の様子が、具体的によくわかるように配慮しました。第1章では、親訓練の歴史や概要を記載し、さらにAD/HD 児の親訓練の特徴について述べています。第2 章では、AD/HD児の親訓練の講義を読者が追体験できるように講義録を示しています。第3章では、このプログラムに参加した、いく組かの親子の実際をプログラムの経過に従って、どのように良くなっていったか代表的な事例を示しています。さらに、第4章では、この学習室で用いる親子のアセスメントの用紙、実際に親に配布する私たちで作ったテキストや資料などを載せています。 この「AD/HDをもつ子どものお母さんの学習室」には親だけではなく、治療者も行動療法を学習する活動として参加しています。この親訓練プログラムはAD/HD 児のためのものですが、ここで得る知識や方法には普遍性があります。行動療法を研修中の治療者は、この教室に治療者として参加し、子どもから大人までの精神科の臨床に役立つ視点や技術を、具体的に、実践的に、確実に習得できます。
このAD/HD 児の親訓練の研究と実践には9 人の著者の他にも、多くの人たちが参加しました。矢津田三夫(療育指導室長、現国立病院機構熊本再春荘病院)、西鶴律子(療育指導室長、現国立病院機構南九州病院)、最所知枝子(保育士) には、当国立病院機構肥前精神医療センターの職員として、この新しいプログラムの講義を担当してもらいました。またスタッフミーティングの場面では、長年の子どもの療育経験からの実践的な意見をもらいました。森山民絵(医師)、木下直俊(医師)、瀬口康昌(医師)、中村理子(医師、現吉田病院)、実松寛晋(医師、現福岡市精神保健福祉センター)、斎藤陽子(医師、現兵庫県こころのケアセンター)、大林長二(医師、現大分県立病院)、甲斐恵利香(医師、現国立病院機構西別府病院)には、小児・思春期部門として、このプログラムに参加してもらい、講義や託児室担当などの仕事をしてもらいました。この学習室には多くの研修生の参加もありました。特に、このプログラムの研修生として弟子丸元紀先生(医師、元国立療養所菊池病院院長)に来ていただいたことは、とても励みになりました。子どもの精神科臨床に対する先生の誠実で真摯な態度を、私たちもお手本にしなければならないことを教えられました。なお研修生として、福岡県立大学人間社会学部大学院生、久留米大学文学部大学院生、西九州大学社会福祉学部大学院生、佐賀市嘉瀬幼稚園保育士の参加がありました。 この他にも、小原葉子(医師、現疋田病院)、金城祐子(医師、元国立療養所琉球病院、現肥前精神医療センター)、中山政弘(児童指導員、元福岡県立大学人間社会学部大学院生、現肥前精神医療センター)など、多くの方々に協力していただきました。 これらの方々のご協力に編著者を代表してお礼を申し上げます。 最後に、平成16年度から独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センターと名称が変わった、元国立肥前療養所の児童思春期部門の研究や臨床をいつもサポートしていただいた病院の皆様にもお礼を申し上げます。とくに、山上敏子先生(元国立肥前療養所・情動行動障害センター長)と内村英幸先生(元国立肥前療養所所長)には終始、貴重なご助言をいただき、AD/HD児の親訓練を早く本にするように励ましていただいたことに改めて感謝の意をここに表します。 なお、この研究は、平成11・12・13年度の厚生労働省精神・神経疾患研究委託費(注意欠陥/多動性障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究)を受けました。
平成17年1月 編集を終えて
大隈紘子伊藤啓介
監修者・著者紹介
會田 千重 あいた ちえ
肥前精神医療センター、医師
7章 担当
磯村 香代子 いそむら かよこ
九州大学、研究生
5章 担当
伊藤 啓介 いとう けいすけ
肥前精神医療センター、心理療法士
監修・2章 担当
大隈 紘子 おおくま ひろこ
大分県精神保健福祉センター、センター長
監修・序章・1章 担当
岡村 俊彦 おかむら としひこ
西別府病院、指導室長
6章・資料4 担当
温泉 美雪 おんせん みゆき
横浜市南部地域療育センター、臨床心理士
3章 担当
野中 美穂 のなか みほ
肥前精神医療センター、心理療法士
10章 担当
免田 賢 めんた まさる
吉備国際大学社会福祉学部、講師
序章・8章・11章 担当
山田 正三 やまだ しょうぞう
菊池病院、指導室長
4章 担当