目に見えないもの 言葉にならないもの

  
今田 寛 著
キリスト教主義に基づく人間教育を建学の精神とする関西学院大学。1997年から2002年4月までの5年間学長の任にあった著者が語る関学教育の心髄。
A5判・216ページ 定価[本体2200円+税]
ISBN 4-86108-000-2 \2200E
2003. 3. 5 第1版 第1刷

目 次

はじめに i
もくじ v

1学生に語る(1)
 1
 美しキャンパスに住む魔物 2/ クスノキに想う 3/ よく学び、よく遊べ 4/ 新大学図書館完成 5/ 生きようとする動機 6/ 関学三原色「風・光・力」 7/ 世界の大卒基準 8/ 弓道と携帯電話 10/ 適応ってなでしょう? 11/初めてキャンプを経験した大学生 12/ キャンパスの知的活性化 13/ 頑張ったサッカー部 14/ 大人になる努力を 15/ 台湾の高さんのこと 17/ 喜び三題 18/ 学生寸言 19/ 二人のノーベル賞受賞者を迎えて 20/ 若者よ、人生の山に登れ 21/ 挫折とのつき合い方 23/ 独りになること、人と交わること 24/ 甲山に登ろう 25/ 宴の後で 26/ 中期英語留学 27/ 21世紀の幕開け 28/ 「在る」ものを「機能」させよう 29/ クスノキとポプラ 31/ スイス・アーミー・ナイフ 32/ 9月8日と9月11日 33/ 世界を100人の村に縮めたら 34/ 学長寸言を終わるにあたって 35/ 

2キリスト教と私
 39
 長い54年間でした 40/ 関西学院とキリスト教と私 41/ 校歌を通して知る関西学院・その建学の精神 50/ 私とキリスト教と関西学院 69/ 

3基調・主張
 71
 基本重視と現実対応・快適性と知的緊張感・求心生と遠心性 72/ 「力強い関学」 79/

4学生に語る(2)
 83
 輝く自由を目指して 84/ 馬上の人になれ 90/自己開墾をして真の主たれ 95/ 

5関学スポーツと私 97
 スポーツと私 98/ 堂々と勝ち、堂々と負けよ 101/ 体育会の皆さん、卒業おめでとう 104/「厩七分に乗り三分」「腕で走れ、脚で投げろ」「4つのコン」 105/ 本を読め、友と交われ、汗をかけ 108/ グライダーの飛翔に想う 109/ 

6学生に語る(3) 111
 関西学院グリークラブと私 112
 空を動かした130人 113/ 「味は一緒でした」 114/ “Do not neglect Spiritual life" 115/ つぼみのある花 116/ 園芸に学ぶ 117/ 輝く氷山の下に隠れた90年 118/ 自信の源泉 119/ メンタル・ハーモニー 120/ 部分の痛みは全体の痛み、部分の喜びは全体の喜び 121/ 甲子園ボウルと合唱 122/ プロとアマ 123/ 加茂周さんの話 124/ 阪神・淡路大震災と高橋智君の死 125/ 黒子に支えられた幸せな役者たち 127/ 100歳を迎えた関西学院グリークラブ 128/ 声が出るということは何と素晴らしいことか 129/ 目標―挑戦―達成 130/ 風土 131
 関西学院大学サッカー部と私 132
 二部落ちして3年目 133/ 一部に復帰して2年目 134/ シーソーの両端に乗っているような関関両校 135/ 一部で迎えることのできた創部70周年 136/ ふたたび二部校同士で迎える関関戦 138/ 7年ぶりに一部復帰 139/ 73年目を迎える早関サッカー定期戦 140/ 追悼、加茂豊総監督 141/ 21世紀最初の関関戦 142/ 部長としての最後のご挨拶 143/ 

7折にふれて 145
 目に見えないもの、言葉にならないもの 146/ 「関学美」三題 149/ オプティミストはなぜ成功するか 150/ 夏の想い出 153/ 携帯電話雑感 157/ 日本人の不安 160/ 阪神・淡路大震災 162/ 関西学院と私 165/ 関学出身者らしい教員の養成 169/ 大学評価について 175/ 外国人学生の見た日本の母親・育児・子供 176/

8自己紹介をかねて 183
 私を育てたもの 186/ 両親と私 188/ 高等部・楽中苦あり 190/ ハミル館 193/ おやじと息子 195/ 桃太郎侍 197/ 
著者略歴
 

はじめに 
 2002年3月31日、2期5年間にわたる関西学院大学学長の任期を、多くの方々のお力添えで無事終えることができた。そしてその1年後、2003年3月末でもって、関西学院における生徒、学生、教員としての56年間にわたる人生に終止符を打つことになった。教員としての44年間の在任中、専門の心理学の教員として、またその他の公的立場で、あるいはクラブの顧問・部長として多くのことを語り、また書いてきた。とくに大学の責任を担った最近5年間にはその機会が多かった。本書は、主として学長時代に書き、話したものを纏めたものである。社会から、あるいは卒業生の皆さんから関西学院大学とその教育を預かった者としての、ある種の報告書である。
 しかし事実の報告をするものではない。また教育者・研究者・役職者の当然の務めとして行った事柄について述べるものでもない。むしろすべての具体的営みの根底にあった私の‘思い’のようなものについての報告書である。思いであるからなかなか言葉では表しにくい。だから本書のタイトルも「目に見えないもの、言葉にならないもの」となっている。語る対象、書く対象によって私の思いはさまざまな表現をとっている。それを全体として感じとっていただくことを期待し、教育という公的責任を担ってきた者の姿勢報告としたい。

 本書は8部構成であるが、学生への語りかけが基本である。本書にまとめるに当たって原稿を読み直し、すべての文章にタイトルをつけ、字句の訂正など、手を入れた方がよいと思ったところは少し手直しをした。またセクション内・間のバランスをとるために、新たに書いたものも少しは混じっている。
第1部「学生に語る(1)」では、学長任期中の5年間、「関学ジャーナル」に毎号書きつづけた短い文章、「学長寸言」が中心である。書いたが用いなかったものも2編ばかり追加した。
 第2部「キリスト教と私」では、キリスト教主義に基づく人間教育を建学の精神とする私学・関西学院に学ぶことの意味について、宗教運動の折に学長としての思いを語ったものが中心である。「校歌を通して知る関西学院・その建学の精神」は、私の長い関西学院生活を背景に、校歌を媒体として関西学院精神を語った、いわば語り部的な思いをもって話したものであり、私としては愛着がある。
 第3部「基調」は、学長就任挨拶と、学長選挙に先立って求められて書いたものである。5年間の学長の任期中、ここで表明したものが揺らぐことはなかったと思うので、セクションのタイトルも「基調」とした。
 第4部「学生に語る(2)」は、5回の4月入学式と5回の3月卒業式の式辞から、それぞれ一つずつを選んで掲載した。公的な式典で、学長として学生にどのようなことを訴えたかを、社会に対し、同窓の皆さんに対して報告しておきたい。
 第5部「スポーツと私」は、スポーツ好きの私がスポーツについて思うこと、関学スポーツに対する特別の期待、その他スポーツに関する随想をまとめている。
 第6部「学生に語る(3)」は、私が顧問・部長として30年近く関わったグリークラブとサッカー部に関するものである。学長時代に限らず、さまざまなプログラムに挨拶文として掲載されたものの中から、「学生に語る」という趣旨にそったものを選んで掲載した。
 第7部「折にふれて」は、主に学長在任中、各方面から求められて書いた随想的な文章の中からいくつかを選択した。
そして最後の第8部「自己紹介をかねて」は、文章による筆者紹介だとご理解いただきたい。私のものの考え方に影響を与えた両親のことも含めた長めの自己紹介とした。親子2代──父43年・私44年──合計延べ87年にわたって関西学院で教育に当たった2人の教員の思いが伝わればと思う。

 今回は私の専門の心理学の論文は一切掲載していない。しかし全体を通して心理学や心理学的なものの考え方が随所に出てくる。内容面での重複はできるだけ避けて選んだつもりであるが、同じ人間が時と所を変えて話し書くわけであるから、ある程度の重なりは避けられなかった。重複がある場合には強調点だと思ってご寛容いただきたい。
 最後に本書を出すにあたり感謝したいことが沢山ある。まず良い教育を授けてくれた両親と母校・関西学院に感謝したい。また父の子であることによって、ともすれば学内で意識過剰になっていた「鼻持ちならない」私を、多少とも「まとも」にしたという家内・節子にも感謝したい。そしてこのような本の出版を勧めてくれた、私の学長時代に学長補佐をつとめてくれた小西砂千夫産業研究所教授にも感謝したい。また本書をまとめるにあたり、休日返上で原稿をチェックし適切な指摘をし、入力その他のあらゆることを実に細かく誠意をもって手伝ってくれた、学長時代の秘書、長野光代さんに、特別の感謝の意を表したい。彼女の助けなくしては本書の出版は不可能だったと思う。そして最後に、私のかつての学生で、現在出版業に携わっている二瓶社の吉田三郎社長が、このような出版を引き受け、親身になって一緒に本書を作ってくれたことに感謝したい。
 関西学院には上とは別の意味での感謝もある。学長として目に見えないもの、言葉にならないものを大切にできたのも、財政的な面での苦労をしていただいた武田建理事長と法人執行部の良きご理解のお陰であったと感謝している。礼節や精神が強調できるのは、「衣食足りて」こその幸せなのかもしれない。
 最後の最後になって恐縮だが、私の中学部時代の恩師、故甲斐淳吉先生の奥様が、先生の優しい絵をカットに使うことをお許しくださったことに心から感謝申し上げたい。私信の葉書にさらさらと描かれたものも拝借したので、先生からはそんなつもりで描いたのではないとお叱りを受けるかもしれない。天国から許していただきたい。
このように、本書はすべて関西学院によって作られた。
   2002年10月              今 田 寛 


[著者紹介]
今田 寛 いまだ ひろし Ph. D., 文学博士
1934年 今田 恵・幾代夫妻の次男として、西宮市に生まれる
1957年 関西学院大学文学部心理学科卒業
1959年 同大学大学院文学研究科修士課程修了
1961―63年 米国アイオワ大学にフルブライト留学生として留学
1968―69年 英国ロンドン大学にブリティッシュ・カウンシル奨学金で留学
1974年 関西学院大学文学部教授
1997―2002年 同大学学長

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